空の彼方の虹
67
一人でなくて本当によかった。
キラは自分の膝を抱きしめながらそう思う。もし一人であれば、いやでもあのときと今をダブらせてしまっていただろう。
「キラさん、俺に寄りかかってください」
それでも、やはり、不安が顔に出ているのか。レイがこう言ってくる。
「うん……ごめんね」
小さな声でそう告げると、キラはそっと彼の方に自分の頭を預けた。
「このくらいはどうと言うことはありませんよ」
だから、頼って欲しい。レイはそう言う。
「レイ……」
「確かに、頼りないかもしれませんけど。でも、俺だってキラさんを守りたいと思っているんですから」
そう言われて、キラは小さくうなずいてみせる。
「別に、レイが悪いわけじゃないんだけど……この状況はあのときに似ているから」
だから、あのときのことを思い出してしまう。そのせいで、余計に不安に思うのかもしれない。
「俺がそばにいます」
だから、とレイの腕がしっかりとキラの肩を抱きしめている。
彼の腕はキラのそれと変わらない太さだ。それなのに、カナードのそれと同じくらい力強く感じられる。そこから伝わってくるぬくもりが、自分が一人ではないと教えてくれた。
「大丈夫です。すぐにギル達が来てくれます」
さらに彼はそう続ける。
「……そう、だよね」
きっと、すぐに彼らが来てくれるはずだ。そうすれば、何とかしてくれる。キラもそう言ってうなずく。
「ラウが帰ってくれば、カナードさん達にも会えますし」
レイが明るい口調でそう告げる。
「兄さんに会えるのは嬉しいけど……」
「どうかしたんですか?」
何か問題でもあるのか、と彼が聞き返してきた。
「カガリが一緒だから」
今回のことを彼女が知ったら、いったい何をしでかしてくれるか。それがわからない。
「ギナ様は、まだ、最悪の行動はとらないと思うんだよね。交渉材料にはするだろうけど」
それはそれでえぐそうだ。キラは心の中でそう続けた。
「ギナ様なら、キラさんのご希望を優先してくださいますよね」
確かに、とレイもうなずく。
「ともかく、誰かが迎えに来るまではここの中にいましょう」
眠っていてもいいですよ、と彼は続ける。
「……うん」
そう言われても眠れないのはわかりきっていた。
目を閉じるとあの日の光景が浮かんでくる。だから、とキラはため息をつく。
「早く、終わるといいな」
こう呟くと、キラはレイの腕を抱きしめた。
ギルバートからのメールに目を通した瞬間、ラウは頭を抱えたくなった。
「何を考えているのやら」
犯人は《彼》しかいないだろう。
おそらく、個人的に接触しようとしてもあの子が出てこない。だから業を煮やして、と言うところなのだろう。
しかし、それがギナを怒らせるとは考えなかったのか。
それとも、別の思惑があったのか。
「どちらが正しいのだろうな」
小さな声でそう呟く。
どちらにしても、厄介な結果しか導かないような気がする。少なくとも、オーブとの関係は最悪になるだろう。
「それでもかまわないと考えているのかね」
あるいは、ナチュラルならば地球連邦だけではなくオーブの人間も同じだと考えているのかもしれない。
「さて……戻ったら、どうするべきか」
間違いなく、あちらから何かを言われるだろう。それに自分は何と答えるべきか。
「あの子を傷つけるようなことだけはさせないつもりだがね」
だが、とラウは続ける。
「今、あの子のそばにいてやれないことがこれほど歯がゆいとは思わなかったよ」
もっとも、それは自分だけが抱いている感情ではないだろう。
「レイががんばってくれていることを期待しよう」
そう呟くラウだった。