空の彼方の虹
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彼らはいったい何者なのか。
キラにはそれがわからない。だが、レイは知っているようだ。
しかし、それを問いかけることは難しいだろう。
「こっちです」
唇の動きだけでレイが自分を招く。声を出せば、あの者達に見つかりそうなのだ。
とりあえず、彼らに見つかる前に物陰に隠れられたのは幸いだったと言える。後は、セーフティルームに逃げ込めばいい。
だが、とキラは思う。
自分達はそれでいいが、他の者達は大丈夫なのだろうか。
「あそこです」
そうしている間にも、目的地に近づいていたらしい。レイがこう言ってくる。
ならば、そこについてから問いかけても遅くはないのか。
実際、このような状況で自分にできることはないに等しい。それならば、他の者達の迷惑にならないようにした方がいいに決まっている。
「ギナ様達が帰ってきてくれればいいのに」
そうすれば、きっと、何とかしてくれるだろう。
「でも、カナード兄さんはまずいかな?」
彼であれば、相手を半殺しにしかねない。オーブならばともかく、プラントでそれはまずいのではないか。
「……うちを壊される程度ならいいのですけどね」
苦笑とともにレイが言葉を返してくる。そのまま、彼は一見すると壁にしか思えないドアを開けた。
「先に入ってください」
どうして、とは思うが口論している時間がないことも事実。
だから、キラは素直に体を滑り込ませる。その後に続いてレイも入ってきた。
ためらうことなく、レイは壁の端末を操作してドアをロックする。
「これでだいぶ時間が稼げると思います」
彼はそう言いながら振り向く。
「それにギルの端末に連絡が入っているはずです」
ここに人が入れば、自動でメールが送信されるから、と彼は続けた。
「だから、すぐに帰ってくると思います」
ギルバートが、とレイは微笑む。
「大丈夫かな?」
犯人と鉢合わせをして、とキラは言い返す。
「ギルさんもだけど、執事さん達も」
一番聞きたいと思っていたことを唇に乗せた。
「大丈夫だと思います。危ないと思えば、みんな、避難するはずですから」
彼らには彼らで逃げ込めるシェルターのようなものがある。だから、とレイは付け加えた。
「犯人の狙いがなんなのか。それはわかりませんが、みんなでないことだけは確かでしょう」
さらに彼はそう言う。
「……だよね」
では、何が狙いなのか。
「やっぱり、僕なのかな」
無意識のうちにこんなセリフがこぼれ落ちた。
「キラさん?」
「そうだとするなら、理由はなんなのかな?」
自分のことがばれたのか。一瞬そう考える。だが、だとするならもっと大騒ぎになっているのではないか。
「……あるいは、確証が欲しいのかもしれないですね」
疑念を抱いてはいても確固たる証拠がない。だから、それをキラの口から聞き出そうとしているのではないか。
レイのその言葉は的を射ているような気がする。
「でも、こんなことをして何の意味があるのか……」
自分が答えるとは限らない。それなのに、と思う。
「俺にも、それはわかりません。
レイがため息とともに口にする。
「でも、キラさんは絶対に、俺が守りますから」
彼は表情を引き締めるとこう言い切った。
「レイ……」
「だから、安心してください」
彼がそれなりに訓練を受けているのは知っている。だが、大人相手にどこまでできるのか。
「無理はしないでね」
そう言いながらも、少しでも早くギナ達が戻ってきてくれるように願わずにはいられないキラだった。