空の彼方の虹

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 カガリはおとなしくしているだろうか。
 そう思いながら、カナードは視線を目の前にいる相手へと向けた。
「不本意だが、カガリを守ることを優先した。とりあえず、そういうことだ」
 そして、言葉を口にする。
「彼女は何者か、聞いてもかまわないかね?」
 知っているだろうに、とは思わない。彼はザフトの隊長として質問しているのだ。
「……カガリ・ユラ・アスハ。ウズミ・ナラ・アスハの一人娘だ」
 この言葉を耳にした瞬間、脇で聞いていた人間が小さく声を上げる。
「あいつが内密にヘリオポリスに行くというので現地で合流しただけだ。元々、俺と弟は仕事で行くことになっていたからな」
 正式な査察であれば、軍人が護衛として付いただろう。だが、カガリは家出同然で向かったらしい。それで、自分達におはちが回ってきたのだ。
「もっとも、弟は途中で乗り込んでいた船が地球軍に襲われたらしく、合流し損なったが」
 無事だといいのだが、とさりげなく付け加える。
 もちろん、彼が今どこにいるのかは報告を受けていたが。
「……キラ君なら、先日までこの艦にいたよ。我々が保護したからね」
 苦笑とともにラウがそう言ってくる。
「すれ違いですか」
 それはそれでよかったのかもしれない。苦笑とともにそう口にした。
「キラがここにいれば、カガリはあいつを守ろうとしますからね」
 同時に、ここにはカガリの天敵がいる。
 その相乗効果がどうなるか。自分にもわからない。
 カナードはそう付け加えた。
「ついでに、アスランのあの子に対する執着もな」
 何かを思い出したのか。ミゲルがこう言ってくる。
「キラがどうかしたのか?」
 あの子が誰かを怒らせるようなことは少ないと思うが、とカナードは聞き返す。もちろん、その理由に思い当たるものがあることは顔には出さない。
「あの子を同じ名前の別人と同一人物だと信じ込んでいてね」
 それは目の前の相手も同じだ。素知らぬ顔でこう言ってくる。
「……あっちの《キラ》か」
 ため息とともにカナードは呟いて見せた。
「カガリとアスランの仲が最悪なのは、それが原因だからな」
 全く、と吐き捨てる。
「血のつながりがある以上、似ていても当然だが……それでも無理があるとは思わないのか」
 年齢が違うだろう、と続けた。
「それも認識できていなかったようだよ」
 別れたときのままの姿だったから、とラウは言ってくる。
「……プラントに行くのも良し悪しだな」
 地球軍と一緒にいるのよりはましかもしれないが、とあきれたように口にした。
「とりあえず、できる限り君たちとアスランが接触しなくてすむようにするよ」
 ラウが苦笑とともにそう告げる。
「それよりも、アスランを行かせたのは失敗だったのかもしれないね」
 ふっと思い出したというように彼は続けた。
「ニコルを護衛につけるべきだったか」
 そのまま視線をミゲルへと向ける。
「……そうですね」
 彼もそれにうなずいて見せた。
「何か?」
 自分とカガリにとばっちりが飛んでこないのであれば無視をしてもいいのだが。心の中でそう呟く。
「ラクス嬢の護衛をアスランに任せていてね。彼らは婚約者同士だからいいと思ったのだが……」
 カガリもいるならば、他の人間を護衛として行かせた方がよかったかもしれない。その言葉に苦笑を浮かべるしかない。
「ラクス嬢が一緒なら大丈夫だ、と思いたいがな」
 だが、カガリとアスランの組み合わせは最悪だから、とカナードは言う。
「ミゲル?」
「見てきますよ」
 そういうとミゲルは身軽に部屋を出て行く。
「さて」
 その姿がドアの向こうに消えたところでラウが小さな笑みを浮かべる。
「今後のことを打ち合わせておくかね?」
 その言葉に、カナードもうなずいて見せた。


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最遊釈厄伝