空の彼方の虹
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目の前でラクスが優雅にお茶を飲んでいる。その隣にはカガリの姿もあった。
きっと、今がチャンスなのだろう。
二人の姿を見ながら、アスランは心の中でそう呟く。
プラントについてしまえば、カガリはカナードとともにオーブの大使館なり迎賓館へと隔離されることは簡単に想像がつく。だから、キラのことを問いかけられるチャンスは今しかないと言える。
だが、カガリに声をかける隙がない。
もっと正確に言えば、ラクスが遮断してくれているのだ。
それはどうしてなのか。
ひょっとして、自分が他の女性に声をかけるのがいやなのだろうか。
そう考えて、すぐにその可能性を捨てる。
確かに、自分達は婚約をしている。だが、それはあくまでも政治的なものなのだ。そこに個人的な感情はないはず。
だが、実際にラクスは自分の邪魔をしてくれている。
それは彼女だけの意思なのかそれともと思いながら、アスランはカガリを見つめた。
「……鬱陶しいな」
ついに耐えきれなくなったのか。カガリが小さく呟く。
「私はあいつににらまれなければいけないことをしたか?」
そのまま、目の前のラクスへと問いかけている。
「わかりませんわ。第一、あったとしても無視してかまいませんわよ」
ラクスがきっぱりと言い切った。
「あなたは捕虜でも何でもないのですもの」
個人的事情ならば、なおさらだ。そう言ってラクスはアスランへと視線を向ける。
「申し訳ありませんけど、部屋の外に出て行っていただけません? カガリではありませんが、鬱陶しいですわ」
ゆっくりと話しもできない。彼女はさらにそう告げた。
「そう言うわけにはいきません」
ため息とともにアスランはそう言い返す。
「二人のそばにいるよう、命じられていますから」
ラウならば、逆に自分を遠ざけようとするかと思ったのだが。心の中でそう付け加えた。
だが、今ならばその理由もわかる
こうして、ラクスが邪魔をしてくれるからだろう。
それがわかれば、また新たな疑問が浮かび上がってくる。
どうして、ラウはその事実を知っているのだろうか。
自分以上に、彼女との接点はないはずなのに。
「……なら、ついたての影にでもいてくださいな」
自分達の目の届かない場所に、とラクスは続ける。
「ラクス・クライン?」
何を言いたいのか、と言外ににじませながらアスランは彼女の名を呼んだ。
「女性同士の気ままな会話を楽しめませんもの」
だから、邪魔です。彼女はそう続ける。
「カガリとは滅多に会えませんのよ? 通信も難しいですし、今は」
だから、遠慮をしてくれ。そう言いたいのだろう。
「それなら、私も同じですが?」
カガリには聞きたいことがある。アスランはそう口にする。
「私はお前と話なんてしたくない」
即座にカガリがそう言い返してきた。
「だそうですわ、アスラン」
さらにラクスが冷たい視線を向けてくる。その表情は自分が知っている彼女とはかけ離れていた。それとも、これが彼女の本当の表情なのだろうか。
「残念ながら、私にはあります。この機会を逃せば、絶対に答えを得られないでしょうからね」
キラのことを、と言わなくてもカガリはわかるはずだ。
「何度聞かれても答えは一つだ」
ため息とともに彼女は言葉を綴る。
「私たちが知っているキラは死んだ。おばさま達と一緒に」
苦しそうな表情で告げられた言葉を、誰が信じるというのか。
「嘘だ!」
反射的にアスランはそう叫んでいた。