空の彼方の虹
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ギルバートだけではなく、ギナもまた困ったような―― だが、どこか楽しげな――表情を作っている。
「何かあったのですか?」
レイが珍しく不安を隠さずに問いかけた。
「とりあえず、悪い話ではないがね」
ギルバートがそう言い返してくる。
「ラウ達が戻ってくる」
それはそれで厄介と言えるのだが、と彼が付け加えたのは、アスランも一緒に戻ってくるからだろう。
「それにカナードとカガリも同行しているらしい」
いつの間に、とギナは続けた。
「兄さんとカガリが?」
いったいどうしてそう言うことになったのだろうか。カガリ一人ならばともかく、カナードが一緒で地球軍に近づくはずがない。そう考えるのはキラだけではないはずだ。
「詳しいことは私もまだ聞いておらぬ。ただ、ヘリオポリスに不具合が出て、住民が避難した後で、地球軍に拾われたのだとか」
どうせ、セイランがいらぬお節介をしたのだろう。忌々しげにギナが付け加えた。
「全く……放っておけばミナが誰かに拾いに行かせただろうに」
どうせ、カガリとカナードを引き離そうとしたのだろう。ギナはそう推測をする。
「……カガリがおとなしくしているはずないのに」
ため息とともにキラはそう呟く。
「それで、どうしてラウさんと一緒に?」
地球軍に拾われていたのなら、とキラは首をかしげた。
「二人が乗り込んでいた艦をラウの隊が捕縛しただけだよ」
ギルバートがそう教えてくれる。
「カガリが暴れたわけではなく?」
事前に、とキラは問いかけた。
「いくらカガリさんでも、それはないと思いますけど?」
レイがそう言ってくる。
「……いや。カガリなら十分やるな」
苦笑とともにギナが言葉を口にした。
「あれはそれなりに訓練している。艦内を制圧はできずとも、混乱さるぐらいやりかねない」
「ラクス嬢が一緒だと連絡があっただろう? たぶん、それも関係しているのだろうね」
カガリと彼女がそろうと時々とんでもないことを引き起こしてくれる二人だから、とギナが笑う。
「それは初耳です」
レイがそう言った。
「私も初めて聞いたよ」
ギルバートですらそういうのだから、知っている者は少ないのではないか。
「ことが起きるごとにもみ消していたからな。カガリはともかく、ラクス嬢はイメージを壊すわけにはいかないのであろう?」
低い笑いとともにギナはギルバートへと視線を向ける。
「彼女は歌姫ですからね」
それに、苦笑とともにギルバートはうなずいて見せた。
「しかし、何をしでかしたのか。後でラウにでも聞いてみようか」
ギナがそう言って笑う。
「……カガリではなく?」
「あれらといつ話しができるか。まだわからないからな」
もっとも、と彼は続ける。
「大使館にあれらを引き取るよう、動くがな」
キラと違って彼らは地球軍と一緒にいたから、この屋敷へ引き取るのは難しいだろう。ギナがそう判断したのであれば、間違いないのではないか。
「安心しろ。必ず話しができるようにしてやる故」
そうでなければ、カガリがまた何かをしてくれるに決まっている。その上、彼女をカナードが後押しをするだろう。最悪、手が終えないことになる。
さすがに、それはまずいのではないか。
「しかし、この場に我がいたのは良いのか悪いのか」
ギナはそう言ってため息をつく。
「……ギナ様?」
それはどういうことなのか。そう思いながらキラは問いかける。
「まぁ、よい。三人そろってオーブに連れ帰ってやろう」
ギナはそう言いながら、キラへと笑みを向けた。
「だから、安心しておとなしくておれ」
よいな、と問いかけられてキラは小さくうなずく。それにギナは「いい子だ」と満足そうに呟いていた。