空の彼方の虹
59
アスラン達が出撃の準備を進めていたときだ。
『パイロット達は至急ブリッジへ』
不意にスピーカーからラウの声が響いてくる。
「……何だ?」
何があったのか、とディアッカが呟く。
「わからない。だが、命令だ。行かないわけにはいかないだろう?」
イザークが即座にそう言い返す。
「ですね」
ニコルがそう言いながら大きくうなずいて見せた。
「……着替えている暇はないな」
アスランはそう告げると体の向きを変える。
「このままでもかまわないか?」
そして、視線の先にいるミゲルへと問いかけた。
「作戦中だからな。かまわないだろう」
さっさと着替えを終わらせろ、とミゲルはディアッカ達へと声をかける。
「了解」
言葉とともに準備が終わった者達からミゲルのそばへと移動していく。もちろん、最初に動いたのはアスランだ。
「全員準備が終わったようだな。なら行くぞ」
メンバーがそろったのを確認して、彼は床を蹴る。
「本当に何があったのでしょうね」
ニコルがこう呟いている声がアスランの耳に届いた。
「作戦を遅らせてまで呼び寄せるとは……それだけ厄介なことでしょうか」
「さぁな。あれこれ憶測していても意味はない。さっさと行って確認するのがいいんじゃね?」
ディアッカがそんなニコルに言い返している。
「珍しい。ディアッカがまっとうなことを言ってる」
先頭で移動をしていたミゲルがそう突っ込んだ。
「それはないだろう! 俺はいつでもまっとうなことを言っているつもりだぞ」
即座にディアッカが言い返す。
「……それは、貴様の気のせいだな」
あきれたようにイザークが口にした。
「イザーク、お前な」
ため息とともにディアッカが言葉を吐き出す。
「違うのか? なんなら、実例を挙げてやるぞ」
笑い声とともにイザークがこんなセリフを告げる。
そういえば彼らは幼なじみだったな、とアスランは心の中で呟いた。
だから、こんな会話も普通にできるのだろう。
ここにキラがいたなら、自分もそんな会話を彼とできたのだろうか。ふっとそんなことを考えてしまう。
「……俺は……」
彼が死んだなんて信じていない。信じるつもりもない。
口の中だけでそう呟く。
しかし、どうすれば彼が生きていると確認できるのだろう。
カガリに問いかけても真実を教えてくれるとは思えない。かといって、オーブに確認を求めても同じだろう。
後は、自力で何とかするしかない。
それはわかっていても、今は下手に動けないというのも事実だ。
少しでも早く動かなければ、キラを見失うかもしれない。ただでさえ、三年も時間を無駄にしてきたのだ。
しかし、今は動けないというのも事実。
せめてラクスのことだけでも何とかなれば、もう少し自由に動けるのではないか。地上に降りることができれば一番いいのかもしれない。
そんなことを考えているうちにブリッジへとたどり着く。
「そろったようだね」
彼らの姿を見てラウがそう告げる。
「先ほど、足つきから降伏信号が送られてきたよ」
さらに彼の口から出たのは、誰も予想もしていなかった内容だった。