空の彼方の虹
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無意識に表情が緩んでいたのだろうか。
「ずいぶんと嬉しそうだな」
ムウにそう突っ込みを入れられてしまった。だが、相手が彼ならば問題はない。カナードは心の中でそう判断をする。
「キラと連絡が取れましたから」
視線を向けずにそう言った。
「元気そうか?」
「ギナ様も一緒にいるそうですよ」
ならば、キラは安全だろう。言外にそう付け加える。
「確かにな。オーブの五氏族。その首長に手を出せるほど、プラントも切羽詰まっていないだろう」
まだ、とムウは言う。
「それでも、まだ帰国が許可されないのは疑問だがな」
ギナが迎えに行っているにもかかわらず、と言外に付け加える。
「まさかと思うが、あちらにばれているとか?」
自分達の工作が、とムウが呟いた。
「いや、それはあり得ない。少なくとも、データー上は、だ」
サハクとアスハが用意したIDだ。そう簡単に偽造だとばれるはずがない。
「……問題は、あいつ自身を知っている人間が、あちらにいると言うことか」
アスランももちろんだがパトリックも顔だけは知っているはずだ。だからこそ、あんなことをしでかしてくれたのだろう。
「まぁ、そっちはあいつらに任せておくしかないな」
ムウは前髪をかき上げながらそう言った。
「こっちには厄介な台風が二つもいるからな」
今すぐにでも取り替えたいくらいだ。そう付け加えたのは間違いなく彼の本音だろう。
「俺だって、そうです」
カガリの手前、とりあえず何とか我慢している。だが、いい加減、爆発しそうだ。
それを避けるためにはキラの気配を近くに感じなければいけない。
「もう少しだ。ミナが動いている」
ムウがそう言って笑う。
「それに、ギナもそろそろ切れる頃だろう」
後はタイミング次第ではないか。言外に彼はそう続けた。
「まぁ、俺も久々にあの子の顔を見たいしな」
それに、とさらに言葉を重ねる。
「あの頃のお前ならば止められたが、今のお前じゃ無理だしな」
二度とごめんだ、とムウは笑う。
「……忘れてください」
あの頃のことは、とカナードはため息をつく。
「そうならないように気をつけているんですし」
全く、と口の中だけで付け加えた。
「忘れないぞ。交渉材料になるからな」
ムウはにやりと笑う。
「と言うことで、ゼロのシステムを、だな」
その表情のまま、彼はそう続けた。
「いやです」
即座にカナードはそう言い返す。
「ストライクが俺の機体だというなら、ゼロはあなたの機体でしょう?」
違いますか? と初めて彼の方へと視線を向けた。
「まぁ、そうだな」
「なら、ご自分で何とかしてください」
きっぱりと、カナードはそう言いきる。
「そう言うなって」
な? とムウが拝むような視線を向けてきた。
「お断りします」
あくまでも一線を画そうとする態度をカナードは作る。
「俺がここにいるのは、あくまでもあいつを守るためです」
彼がそう言った瞬間、視界の隅で動く人影を確認できた。