空の彼方の虹
56
「まさか、ラクス嬢もご一緒だとは」
ため息とともにギルバートが告げる。
「そんなにまずい場所にいるんですか? 兄さんとカガリは」
即座にキラはこう問いかけた。
「まずいというわけではないよ。ただ、厄介だとは思うが」
ギナがここにいるようなものだ。ギルバートは言外にそう言い返してくる。
「おとなしくしていなければならないということだけかな? まずいことがあるとすれば」
むしろカナードよりもカガリの方が問題かもしれない。彼はそう続けた。
「どちらにしろ、カナード君であれば問題はない。こちらに連絡をもらえたからね。ラウもフォローに向かうはずだ」
ギナが戻ってくれば、オーブにも働きかけができる。
「……そうなんですか?」
だが、キラにはそれを素直に飲み込めない。
「もちろんだよ」
しかし、ギルバートはいつもの笑みを浮かべたままだ。
「第一、カナード君だよ。その気になれば、地球軍の本部に侵入して帰ってくるくらい、何でもないと言いそうだよ」
いや、それどころか実行できるのではないか。彼にそう言われて、キラは小さくうなずく。実際に、そうしてきたことがあったと思い出したのだ。
「だから、安心しなさい」
それでも、どこか不安が消えない。
「……ラウさんと言うことは、アスランも一緒ですよね?」
それはそれで怖いことになるのではないか。
「部下だそうですから、そうでしょうね」
レイがいやそうにうなずく。
「そういえば、かなり愚痴を聞かされていたね」
ギルバートは言葉とともに視線をレイへと移す。
「他の人間相手ではできないことですから、仕方がありません」
キラのことを悟られるわけにはいかない。そのためには、事情を知っているものの前ぐらいでしか愚痴れなかったのだろう。
「……ごめんね、僕のせいで」
キラは首を縮めるとそう言った。
「キラさんが謝ることではありませんよ。俺もあれこれ言いましたから」
にっこりと笑いながらレイは言い返してくる。
「そうだよ。まだ、口先だけだからね。安心していい」
ギルバートもそう言って笑った。
「ともかく、ラウにがんばってもらえばいいことだからね」
そうすれば、すぐにでもラクス達を保護できるだろう。
「だといいのですが」
キラは小さな声でそう呟く。
「ラウならできますよ?」
「それはわかっているけど……問題は、カガリが素直に従ってくれるかどうかだよ」
彼女のことだ。自力で何とかしようと考えるのではないか。
「あぁ。そちらの問題があったね」
ギルバートが苦笑を浮かべる。
「それこそ、カナードさんに何とかしてもらわないといけないのではありませんか?」
レイがそう告げる。
「……兄さんは、面倒くさくなると実力行使だよ?」
気絶させてかついで連れてくる、とキラは言う。
「その上、その後のことは全部丸投げだし」
なだめるのが自分の役目になっているのはどうしてだろうか。
「なら、君にもがんばってもらわないとね」
即座にギルバートが突っ込んでくる。
「……ギナ様に丸投げしようかな、僕も」
ため息とともにキラはそう呟く。
「それは無理だと思いますよ」
「だよね、やっぱり」
ギナのことだ。すぐに自分に押しつける算段をつけるに決まっている。そう考えると、キラは深いため息をついた。