空の彼方の虹

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「キラさん」
 パソコンをいじっていたレイが、不意に彼の名を呼んだ。
「何?」
 言葉とともにキラは本から顔を上げる。
「カナードさんからだと思うのですが……確認していただけますか?」
 しかし、レイの言葉にすぐには反応ができない。
「兄さんから?」
 まさか、と思う。だが、彼ならばあり得るだろう。ただ、どうして《レイ》なのか、と首をひねりたくなる。
「はい。たぶんですけど」
 さらに言葉を重ねられて、キラは本をテーブルの上に置いて立ち上がった。
「でも、どうして君のアドレスなのかな」
 少し不満げにキラは言う。
「キラさんのアドレスでは届かないと判断されたのではないでしょうか」
 苦笑とともにレイが言葉を口にする。
「あるいは、誰にも除かれたくなかったか、ですね」
 だが、すぐに表情を引き締めると彼は言葉を重ねた。
「その可能性は、あるかも」
 しかし、それならギナでもいいのではないか。
 でも、何故、レイだといやなのだろう。ふっとそんなことを考えてしまう。
「ともかく、見せて」
 だが、今はそれよりも先に考えなければいけないとがある。そう考えてレイのそばに歩み寄った。
「これです」
 この言葉にモニターをのぞき込む。そこには、意味のわからないアルファベットや記号の羅列が表示されている。
「暗号だね」
 確かに、こういうことをするとすればカナードぐらいなものだろう。
「ちょっと待ってね」
 こう言うと、キラは自分が先ほどまで座っていた椅子へと戻る。
「そっちに一つ、プログラムを送ってもいいかな」
 そのまま、自分用にと渡されたパソコンを起動しながら告げた。
「もちろんです」
 レイがすぐに言葉を返してくる。
 それを確認して、キラはすぐに彼のパソコンへと自作の暗号解読ソフトを送るための操作をした。
「来ました」
 外部からのそれは厳しくチェックされるが、家庭内であれば無条件で届くらしい。普段はレイとギルバートしかいないから、それも当然なのだろうか。そう思いながら、キラはまた彼の元へと戻る。
「レジストリはいじらないから、適当に解凍して」
 説明の言葉を口にすれば、レイは手早く作業を終えた。
「そうしたら、そのままEXEファイルをメーラーにドラッグすれば、勝手に解読するから」
 カガリに渡すことを目的に作ったソフトだから、操作自体は簡単なのだ。
「はい」
 実際、レイもそれでいいのかと表情に書いている。
 しかし、すぐにただの文字の羅列がきちんとした文章になったと言う事実を目の当たりにしては、納得しないわけにはいかなかったようだ。
「……キラさん?」
「カガリ専用のソフトだから、それ」
 この一言でレイは納得したらしい。
「それで、なんて書いてあるの?」
 キラはそう問いかける。
「……やっぱり、カナードさんからですね」
 レイは文章の最初を指さしてこう言った。
「みたいだね」
 そう言いながら、キラは内容に目を通していく。一方、レイは視線をそらした。それは礼儀を考えてのことだろう。
 確かに、これを読まれたら恥ずかしい。
 そう言いたくなるような言葉の羅列に、キラは苦笑を浮かべるしかできなかった。
 だが、それも最後の部分に目を通すまでだ。
「……レイ」
「なんですか?」
「ラクス・クラインって、今、プラントにいないの?」
 この言葉に、彼は首をかしげる。
「兄さん達と一緒にいるみたいなんだけど……」
 どこにいるのだろうか、とキラも考え込む。
「ギルさんなら知っているのかな?」
「そうですね。聞いてみましょう」
 二人はそう言ってうなずきあった。

 これが大人達に一騒動を引き起こすとは思っても見なかった。


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最遊釈厄伝