空の彼方の虹
52
ミナは渋面を隠そうともせずに、相手を見つめる。
「地球軍の動き、間違いないのだな?」
そのまま、相手へとそう問いかけた。
自分達の養父と同年代の相手に対する口調ではない。だが、相手はそれを気にしたそぶりもなかった。
『キサカが調べ上げた。間違いなく、第八艦隊が動いている』
アメノミハシラから見て、月の裏側になる。だから、ミナからは確認できないのだろう。彼はそう続けた。
「わかった。後は、私の方で動けばよいのか?」
連中の動向の調査は、とミナは聞き返す。
『そうだな。そうしてもらえればこちらとしても他のことに注意を向けられる』
馬鹿が動いているから、とウズミは笑う。
「あれらか」
やりそうなことだ、とミナはため息をつく。
「全く……手を出さぬなら出さぬで一貫すればよいものを」
おいしいところだけとろうとするから失敗するのだ。そう続ける。
「それでも、それがあの一族の特性だからな。仕方があるまい」
こちらの邪魔をするならたたきつぶすだけだ。
「私は守るべきものを守るだけのこと」
そうであろう? とミナはウズミに問いかける。
『確かに。もっとも、順番を間違えるわけにはいかないが』
自分達が守るべきはオーブという国だ。
ウズミのその言葉も納得できる。だが、自分にとって守るべき最優先は《キラ》と彼の両親が自分達に預けてくれたものだろう。
『オーブという国に関して最終的に結論を下すのは私だ。君はまず、君の民のことを考えてくれるとありがたい』
アスハのことは、炎もいる。だから、と言われてミナはうなずいてみせる。
「ただ、プラントとの交渉に関しては、力をお借りするかもしれない」
あちらが妙にごねている以上、と続けた。
『まさかとは思うが……』
キラの真実に気づかれたのだろうか。ウズミは言外にそう問いかけてくる。
「わからぬ。ギナも、そのあたりのことをつかめずにいる」
珍しくも実力行使に出ていないからかもしれないが。小さな笑いとともにそう告げた。
「もっとも、こちらとしては、その方がありがたいがな」
ギナが暴走をしたらフォローをするのが大変だ。
『大丈夫かね?』
「キラがそばにいるから、大丈夫であろう」
自分が暴走すれば、あの子供を危険にさらしかねない。それがわかっているから、ギナはおとなしくしているのだろう。
『そうか。ならば、こちらも搦め手で動けるわけだな』
ウズミはそう言って笑った。
「と言っても、限界はあるだろうがな」
あの二人の精神状態を考えれば、とミナは言外に付け加える。それでなくても、自分もそろそろあの子供の顔が見たい。
「あちらに味方がいることだけが不幸中の幸いだが、な」
ラウとギルバート、それにレイがいる。だから、自分もまだ、のんびりとしていられるのだ。
『何かあるとすれば、戦争が終わったときかもしれん』」
ウズミがそう口にする。
「それまで、あの子をプラントにとどめておきたいと?」
可能性としてはあり得る話だ。
だが、とすぐに思い直す。
「その前に、連れ戻すだけだがな」
ミナはそう言って笑った。
『ほどほどにな』
どうやら、ウズミも止めるつもりはないらしい。
「心にとめておこう」
やるなら、内密に。あるいは、多少派手でもこちらの仕業とばれないようにか。
「もっとも、すべてはあちら次第だ」
その前に第八艦隊の動きを掌握しなければいけない。
「そういえば、第八艦隊には、あの二人がいたな」
騒がしくなりそうだ。ミナは口の中だけでそう呟いていた。