空の彼方の虹

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 いったい、何を考えているのだろうか。
「コーディネイターだって、人間だぞ?」
 全く、とカナードは呟く。
「いつまでもこの態度が改められないなら、俺はあの二人を連れて出て行くぞ」
 いい加減、我慢の限界だ。
 この艦の中でのあれこれは、と口の中だけで付け加える。
「それは困るな」
 ため息とともに背後から声が響いてきた。
「フラガ大尉?」
 誰に聞かれているかわからない。だから、皆が読んでいるのと同じ呼びかけを口にしながら、視線を向ける。
 同時に『どうして彼の気配はわからないのだろう』と心の中で呟いてしまった。
 コーディネイターである自分の聴力はナチュラルのものよりも鋭い。そして、それなりに経験を積んでいるから、気配を見失うことはない、と信じている。それなのに、どうして彼はわからないのだろうか。
「何だ?」
 思わず、見つめてしまったからか。彼がそう問いかけてくる。
「あなたの接近に気づけなかった自分に、あきれているだけです」
 気配をつかめなかった、と素直に続けた。
「そりゃ、年期が違うからな」
 にやり、と彼は笑いながら言う。
「年長者の矜持もあるからな」
 さらに彼はこう付け加えた。同時に、カナードの頭に手を置くと髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回してくれた。
「そう言うことは、もっと小さな子供にしてやってください」
 言外に『キラにやれ』と告げる。
「何いってんだ。俺から見れば、お前も十分『お子様』だって」
 しかし、彼にあっさりと受け流されてしまった。
「ともかく、何があったのか。きちんと話をしろ」
 そうでなければ、自分もフォローのしようがない。彼はそう続けた。
「ご自分の部下達の言動をご存じないのですか?」
 それにカナードはこう言い返す。
「俺についてはかなりマシですがね。プラントの姫君に関しては、ものすごくまずいと思いますよ?」
 見ていて、怒りすらわいてくる。そう続けた。
「カガリに対しても同じようになりつつありますしね」
 カナードはさらに言葉を重ねる。
「……マードック達もか?」
 即座に彼はこう問いかけてきた。
「だったら、とっくにここを出て行っています」
 その気になれば、いつでも実行可能だ。例え、目の前の相手が邪魔をしたとしても、である。
「……と言うと、あっちか」
 本当に困った連中だ、と彼は呟く。
「それに関しては、俺が何とかしてみる。だから、頼むから早まるな」
 今は、と彼は続けた。
「連絡が取れれば、いくらでも対策がとれるんだが」
 誰に、と言われなくてもその表情だけで理解できる。
「いざとなればとれますよ」
 あまり表沙汰にできない方法ではあるが、とカナードは小声で言う。
「ここは、ジャンク屋の庭みたいな場所ですからね」
 彼らはサハクともつながりがある。だから、と続けた。
 実際には、この艦の通信システムをすでに乗っ取っているのだ、と言うことは伝えないでおく。
「なるほどな」
 それでも、何かを察したのだろう。彼はうなずいてみせる。
「お前の仕事の速さには感歎するよ」
 さらにこうささやいてきた。
「と言うことで、メビウス・ゼロの調整も頼むな」
 あちらの方を何とかしてくるから、と彼は笑う。
「それは違うでしょう!」
 反射的にこう叫ぶ。
「違わないって」
 頼んだぞ、と彼はカナードの肩を叩く。そのまま、逃げ出すようにさっさと離れていく。
 止める間もあればこそ、だ。
「ひょっとして、俺を探していたのは仕事を押しつけるつもりから、だったからか?」
 おそらく、それが正解なのだろう。
 そう考えて、カナードはため息をつく。
「仕方がない。行くか」
 そのまま、彼は床を蹴った。


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最遊釈厄伝