空の彼方の虹
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「……何故、ラクスが……」
アスランはそう呟く。
「ユニウスセブンの慰霊団の団長として、あの方以上にふさわしい人間はいませんよ」
ニコスがすぐにこう言ってくる。
「だよな。俺としても、彼女の歌は聴きたいし」
ミゲルも即座にうなずいて見せた。
「ラクスの歌……」
音楽に造詣の深い二人がそろってそういうのだ。だから、きっとそれなりにすばらしいものなのだろう。
だが、自分にはそれほどいいものとは思えない。
確かに子守歌にはよかったが、と心の中だけで付け加えた。
「どうかしましたか?」
自分の反応が意外だったのか。ニコルが不満そうに問いかけてくる。
「いや……ラクスの歌を聴く機会があまりなかったからな」
アスランは慌ててこう言い返す。
「それよりも、話をする方が多かったし」
お互いのことを知らなければいけないと考えていたから。そう続ける。
「アスランの場合は、そうかもな」
ため息とともにミゲルがそう言った。
「しかし、もったいないよな。ラクス・クラインの歌に興味を示さないなんて」
「そうですね」
二人はそう言い合うと顔を見合わせる。
「ともかく、ラクスさんの無事を確認することが先決ですよね」
ニコルは視線を戻すとそう言った。
「それなんだがな……ラクス嬢が乗られていた船の航路からまず捜索すべきだろうな」
ミゲルがため息とともにそう言う。
単に航行できなくなっているだけならば、発見した時点でこちらの任務は終わりだ。
しかし、そうでなかった場合は厄介なことになる。
「足つきもまだ、見失ったままだしな」
彼はさらにそう付け加える。
「……足つきが関わっていると?」
ニコルがすぐに聞き返す。
「ない、とは言いがたいだろう?」
同じ宙域にいる以上、と言われれば納得するしかない。
「宇宙は広いのに、予想外に狭いわけですね」
ニコルがため息とともに呟く。
「と言うより、俺たちがいる場所が、だろうな」
人間は、未だに地球と小惑星の間にしか生息圏を確保していないからな、とミゲルが口にした。
「妙に哲学的だな」
アスランは少し皮肉を込めてそう言う。
「そうか? よく言われることだぞ。人類は、地球から離れられないのではないか、とな」
それにミゲルはこう言い返してきた。
「だからこそ、こんなところで争ってるんだろう」
本気でいやなら、火星なりなんなりに移住すればいいのではないか。
「まぁ、世迷い言はここまでにしておくか」
彼はそう言って表情を引き締める。
「ともかく、最悪の状況も考えておけよ、アスラン」
何を、と言われなくても想像がついてしまう。
「最初から、覚悟しています」
口ではこう言い返す。だが、自分の心が少しも揺らいでいないという事実を、アスランは自覚していた。
自分にとって、ラクスはいてもいなくてもかまわない、と思える存在だからか。それとも、まだ、知り合って時間が短いからかもしれない。
もっと時間があれば、キラと同じような存在になってくれるとは思えないが。
いや、誰も彼と同じように自分の心の中に入ってこられるはずがない。
それでも、今は彼女を探すことを優先しなければいけないのだ。そう考えて、アスランは小さなため息をついた。