空の彼方の虹
49
ギルバートが多識に戻ったのは、もう、夜も更けた頃だった。
当然、キラとレイは眠りについている。だが、起きて待っているものがいた。
「すまぬが、一杯、やらせてもらっているぞ」
グラスを片手にギナがこう声をかけてくる。
「いや、かまわない。口に合っていればいいが」
苦笑とともにそう言い返す。
「のどを潤すには十分だ」
彼はそう言って笑う。
「どのみち、酔えんからな」
自分はアルコールでは、と笑みに苦いものを含めた。
「確かに」
結局は、フレーバーを楽しむ程度でしかない。
「そのあたりの楽しみを残してコーディネイトをして欲しかったね」
自分の両親には、と続けながらギルバートは彼のそばに歩み寄っていく。そして、適当にそばの椅子に腰を下ろす。
「ご相伴させていただいても?」
「元々お前のものだ。好きにすればよい」
ギナはあっさりとこう言った。
「失礼」
言葉とともに椅子に腰を下ろす。そうすれば、当然のように執事がギルバート用のグラスと換えの氷を持ってきた。
小さくうなずくことで、彼の行動を受け入れる。そのまま、執事は離れていく。
「しかし、厄介なことになっておるようだの」
それを確認してから、ギナが声をかけてくる。
「今日も、この家の周りを軍人らしきものがうろついておったぞ」
さらりと彼はそう続けた。
「……キラとレイは、その事実に?」
「キラは気づいておるまい。レイの方は、どうかの」
あの子はラウがきっちりと基本をたたき込んでいるようだが、と彼は笑う。
「もっとも、キラはあれでよい。あの子を守るものは大勢おるからの」
あの子にだけは、自分の手を血で染めて欲しくない。ギナはささやくようにそう言った。
「私の、勝手な気持ちだからな」
彼はそう続ける。
「いや。それは私たちも同じだよ。あの子の手は、誰かを救うために使って欲しい」
それに必要な知識を手にできるための手段なら、いくらでも用意しよう。ギルバートはそう考えていた。
「もっとも、すべてはあの子の気持ち次第だけどね」
カナードのように戦うことを望んだときには、それを受け入れなければならないだろう、そう締めくくる。
「あの子は、自分から進んで戦いを選ぶことはない。カナードと違ってな」
キラを育てたご両親の教育がよかったのだろう。ギナはそう言う。
「あるいは、カナードがああだったから、気をつけたのかもしれんな」
あれは、間違いなく性格の違いだ。ギナはそう断言をする。
「もっとも、カナードはあれでよいのだがの」
きちんと自分をコントロールできているうちは、と彼はグラスに唇をつけた。
「キラがいるうちは大丈夫ではないかな?」
ギルバートはそう問いかける。
「確かにの」
まさしく、そうだ。ギナはそう言ってうなずく。
「だから、プラントにはやれんよ」
苦笑とともに彼はそう言いきる。
「それに関しては、あきらめていますよ。残念ですがね」
一緒にいると、とても楽しい。だから、本人が望むのならば、いくらでも手を打つつもりだ。しかし、キラ本人がオーブに帰りたがっている以上、引き留めるわけにはいかない。
「……私がわざわざ出向いているのに、何故、許可が出ないのだろうな」
ギナがこう言ってくる。おそらく、それが本音ではないか。
「今、調べていますから、もうしばらくお待ちください」
勝手な行動をしないで欲しい、と言外に告げる。
「仕方がないの」
こう言うと同時に、ギナがグラスの中身を空にした。