空の彼方の虹
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パソコンのモニターをにらみつけながら、キラは手早く手元に数字をめもしていく。
「何をしておるのだ?」
そんな彼の様子に興味津々といった様子でギナが問いかけてくる。
「ギルさんからこちらのカレッジで使われているプログラムの教科書を回してもらえましたので、ちょっと勉強してみようかと」
キラは視線を手元から動かすことなくこう言った。
「オーブで学ぶのとは内容が違いますから」
どちらがいいとか悪いとか、と言った問題ではない。ただ、単純にいろいろな方法を覚えておきたいだけなのだ。
「お前に必要があるとは思えないがな」
ギナはそう言ってくる。
「僕のはかなり自己流ですから」
そのせいか、自分が作ったプログラムを理解してくれるものは少ない。今では、カナードぐらいではないだろうか。
今はそれでもかまわないが、他の人たちと仕事をするようになれば困るかもしれない。だから、基本的なことだけでも覚えておいた方がいいような気がする。
「それでかまわぬと思うが……まぁ、勉強をして悪いことはあるまい」
言葉とともにギナがキラの頭をなでてくれた。
「しかし、そう言うことならいくらでも教師を用意したものを」
その手を止めないまま、彼はため息をつく。
「でも、久々にラウさん達にあえましたから」
キラはそう言って笑った。
「まぁ、そういうことにしておこうか」
不本意だが、と彼は続ける。
「ただ、お前がおらぬからあれがそろそろ爆発しそうでの」
意味ありげな言葉に、キラは表情をこわばらせた。
「兄さん、ですか?」
確かに、ちょっと離れている時間が長いような気がする。
「そんなにまずい状態だったのですか?」
カナードは、と問いかけた。
「……今は、カガリのそばにいる。だが、あれもいつまでストッパーになるか」
それが問題だ、と彼は続ける。
「カガリが一緒なら、大丈夫だと思いますけど」
彼女も女の子だ。確かに、自分よりも強いかもしれないが、それでも、カナードの守る対象になっている。
「確かに、の。今はまだ大丈夫か」
だから、完全に《安全》と言える場所でなければ、カナードが爆発をするはずがない。
「……あれ?」
ここまで考えて、キラはあることに気づく。
「兄さんとカガリは、オーブにいるんじゃないですか?」
オーブでは、カガリに危険が及ぶはずがないだろう。
「……あれらは、ムウのところにおる」
ため息とともにギナはそう言った。
「ムウさんの?」
彼は今、どこにいただろうか。
「そう。だから、心配はいらん。あの三人のことだ。いやになれば早々にアメノミハシラに駆け込むだろう」
後はミナに任せればいい。そう言ってギナは笑う。
ムウだけでは確かに心配だが、ミナがいれば大丈夫だろう。ギナには悪いが、そういう点ではミナに軍配が上がる。
「そうですね。ミナ様なら、何とかしてくださいますよね」
キラは小さくうなずいてみせた。
「そうなると、やはり問題はお前の方が」
いっそ、強引に連れ出すか。ギナが口の中だけで呟いている。
「それはギルさん達に迷惑がかかりますから、やめてください」
後々厄介なことになるのではないか。キラはそう続ける。
「わかっている。姉上にもウズミにもそう言われたわ」
ギナがそう言ってため息をつく。
「お前が悲しむようなことはせぬ。安心しろ」
「わかっています。ギナ様は嘘をつかれませんし」
彼の言葉にキラは微笑む。それに、ギナも微笑みを返してきた。