空の彼方の虹
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ギナが迎えに来た以上、すぐにでもキラをオーブに返す手続きをとるべきなのだろう。
しかし、それを邪魔してくれる人間がいる。
「……何故、ザラ委員長が……」
理由は想像がついていた。しかし、それを同僚達に知られるわけにはいかない。だから、ギルバートはわざとらしいくらいに深いため息をついて見せた。
「彼が優秀だから、じゃないのか?」
そうすれば、彼の言葉を聞いた同僚がこう言ってくる。
「優秀な子供はプラントに確保しておきたい。そう考えておいでなのだろうが」
「あのはまだ、未成年だよ。ご親族もオーブにいる」
引き離すのはかわいそうだと思うのだが、とため息をついた。
「本国にナチュラルは入れないしね」
さらにそう付け加える。
「そうだよな」
子供は身内のそばにいるのが一番いいか、と彼はうなずいて見せた。
「何よりも、あの子はサハクの関係者だ。このまま、あの双子他結婚しなければ、あの子がサハクの当主になるかもしれない」
そんな子供をプラントに移住させるはずがないのではないか。
「……それで、サハクの片割れが来たのか」
納得した、と周囲の者達がうなずいている。
「そうらしいよ。詳しいことは、クルーゼ隊長の方が知っているが」
彼の知り合いだから、とギルバートは言う。
「あまりいいことではないと思けどが、あの子の存在を取引材料に、こちらに有利な状況を作ろうとしているのかもしれないわね」
今まで黙って聞いていた女性がこう言った。
「……それはないと思いたいが、あの方だからな」
今現在、プラントは地球からの輸入が滞りがちになっている。ユニウスセブンが失われた今、生鮮食品が品薄になりつつあるのだ。
「それは諸刃の剣だろうね」
ギルバートはため息とともに口を開く。
「あちらにはセイランもいる。最悪、地球軍が口を挟んでくる口実になりかねない」
そうでなかったとしても、未成年の子供を家族の元に返さない。そういえば、民衆はどう思うだろうか。
「難しい問題よね」
「確かに」
彼の言葉に同僚達はみんな、うなずいてみせる。
「本当に、何を考えておられるのか」
同時に、ギナがどう動くのか。それを考えるだけでもため息しか出てこない。
だが、ギナの方はキラが何とかしてくれるだろう。
そうなれば、やはり、厄介なのはパトリック、と言うことになる。
「彼の息子だけでも厄介なのに」
あの子は男の子なのだが、と付け加えたのは、同僚達をミスリードするためだ。
「あら、一目惚れされたの?」
案の定、すぐに引っかかってくれる。
「でも……確かザラ委員長のご子息はクライン議長のお嬢さんと婚約をしていたはずでは?」
さらにこんなセリフが飛んできた。
「そういえば、そうよね」
「政治的なものを含んでいる以上、破棄はできないだろう。だから、困っているんだよ」
男の子だと説明しても納得してもらえないようだし、と続ける。
「そう考えると、委員長の行動にも不審な点が出てくるわね」
「確かに。その子を早々にオーブに返した方がいいと思うがね」
いろいろな意味で、と続けられた。
「クルーゼ隊長が残念がる以外は、ね」
久々にあえて喜んでいたから、とギルバートは苦笑を浮かべる。
「ともかく、ザラ委員長の様子に注意してくれるかね?」
何かあったら教えて欲しい。
「わかった。子供のためなら協力しよう」
「そうね。子供が不幸になるのは不本意だわ」
これで、自分が見逃しても彼らがフォローしてくれるだろう。
もっとも、あちらにも自分が彼のことを気にしていると伝わる可能性はある。だが、それはすべて、あの子を心配しての行為だと言い切ることができるだろう。
「無事にあの子をオーブに帰すことができればいいのだが」
ギルバートは本心からそう告げた。