空の彼方の虹

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 目の前に現れた少女に、カガリは本気で頭を抱えたくなった。
「……何で、お前がここにいる」
 とりあえず、何とか踏みとどまる。そして、こう問いかけた。
「偶然ですわ、カガリ」
 その言葉を信じろというのか。心の中でそう言ってしまう。
 いや、これがキラであれば無条件で信じただろう。
 そのほかの友人達でも、だ。
 しかし、目の前の相手を含めた数名だけは、絶対に信じられない――もちろん、その中にはカナードとサハクの双子も含まれている――そのメンバーの場合、その背後に別の思惑があるに決まっているのだ。
「本当ですのよ、今回は」
 だが、彼女はあくまでもこう言い張る。
「……なら、何でここにいるんだ?」
 カガリはそう問いかけた。
「ユニウスセブンの慰霊団の団長を頼まれましたの。それで、宇宙船で現地に向かっていたのですが、途中でどなたかに襲われたらしくて……」
 もちろん、犯人は地球軍だろう。そのくらいの推測はカガリにもできる。
「わたくしがまず避難をさせられたのですが……その後、あなたのご親戚に拾われてこの艦に来たのですわ」
 そういえば、先ほどカナードが哨戒に出て行ったはず。そのときのことだろう。
「……放っておけばいいのに」
 ため息とともに思わず本音がこぼれ落ちてしまった。
「ひどいですわね、カガリ」
 即座に彼女がこう言ってくる。
「親友との久々の再会を喜んではくれませんの?」
 その表情だけを見ていれば、こちらがものすごく悪いような気がしてならない。だが、それにだまされると、後でひどい目に遭うのは自分の方だ、と言うこともカガリはよく知っていた。
「親友かどうかは別に置いておいて……再会を喜べる状況か?」
 カガリは逆に聞き返す。
「言われてみればそうですわね」
 それにあっさりと彼女はうなずいて見せた。
「これがザフトの船か、オーブの船であれば、諸手を挙げて喜ばせていただきましたわ。何でしたら、リサイタルも開かせていただきたいくらいに」
「……それはちょっと残念かもしれないな」
 彼女の歌は自分が聴いても『すばらしい』と思えるのだ。それを生で聞けるとあれば逃したくないと考えてしまう。
「キラも、お前の歌は大好きなんだよな」
 本人については聞いたことがないからわからないが、と呟く。
「キラ様、ですか?」
「そうだ。お前を連れて来た人の弟、と言うことになっている」
 とりあえずは、と声を潜めながら付け加えた。
「実際には違うのですね?」
 彼女も同じように声を潜めながら聞き返す。
「遺伝子の提供者は、私と同じだがな」
 そう言った意味では、自分の姉弟とも言える。カガリはそう付け加えた。
「では、どうしてご一緒に暮らしておられませんの?」
 彼女の疑問はもっともだろう。
 さて、どこまで話していいものか。こういうときにカナードがいてくれれば、いいのに。
「わたしが養女なのは知っているな?」
 そう考えながら口を開いた。
「あいつの場合、生まれがちょっと厄介でな」
 カガリにしては慎重に言葉を選びながら話を続ける。
「カナードさんも、同じような生まれで……だから、二人まとめて親戚の養子になった。私たちの実の親は、すでに鬼籍に入っていたからな」
 そういう理由で、自分もウズミの養女になったのだ。
「問題は、あいつの養父母が軌道エレベーターに関わる技術者だった、と言うことだ」
 あれの完成を快く思っていない者達や、利権を手に入れたい者達。そんな連中の抗争に巻き込まれて、彼らもまた、命を落とした。
「サハクの双子があの二人を引き取ったのは、そんな連中から守るためだったんだが……それが逆に余計な憶測を生んでな」
 そのせいで、キラはますます複雑な立場に追い込まれたのだ。そう締めくくる。
「全く……あいつは何の罪もないのに」
 困ったものだ、とため息をついてみせる。
「そうですか」
 彼女はそう言って小首をかしげた。
「では、そう言うことにさせておきましょう」
「何なんだよ、そのセリフは」
 彼女の言葉に、カガリは目をすがめる。
「わたくしの目はごまかせない、と言うことですわ」
 しかし、話したくないのであれば話さなくていい。そう言うことだ。彼女はそう言って微笑む。
「すまん、ラクス」
 それに、こう言い返すしかできないカガリだった。


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最遊釈厄伝