空の彼方の虹

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「それは、家の中にだけいるからだろうね」
 キラの話を聞いたギルバートは即座に答えを返してくれた。
「しかし、君を自由に外出させるのは、ちょっと難しいね」
 現状では、と彼は続ける。
「それは当然のことだと思います」
 自分はオーブの人間だから、とキラは口の中だけで付け加えた。
「いや、そういう意味ではないのだよ。本音を言えば、レイも外出禁止にしたいくらいだしね」
 二人ともかわいいから、とギルバートは真顔で告げる。
「それって……」
 何か、どこかで聞いたことがあるセリフだ。ひょっとして、そういう意味なのだろうか。
「最近、プラントも治安が悪くなった、と言うことだよ」
 不本意だがね、とギルバートはため息をついてみせる。
「容姿なら、誰もが似たり寄ったりだと思うのだが。少なくとも、プラントにいる者達は」
 個人的な好みは脇に置いておいて、と彼は続けた。
「君たちの容姿は、多くの者達から『かわいい』と言われるのに不足はないからね」
 だから、余計に気をつけなければいけない。
「ともかく、敷地内は安全だと思えるレベルまでセキュリティを上げてある。それで我慢してくれるかな?」
 今は、と続けた。
「仕方がないことだ、とわかっています」
 多少息苦しいが、とキラは口にする。
「それでも、知っている人に連絡が取れるだけでも十分です」
 例え、それが一番連絡を取りたい人たちでなかったとしても、だ。
「何。すぐにサハクとの連絡には許可が出るよ」
 キラの保護者はカナードではなくサハクの双子になっている。まだ未成年である彼を保護している以上、保護者と連絡を取らせるのは当然のことだ。
「上層部としても、まだ、オーブとの関係を最悪なものにしたくないだろうからね」
 確かに、サハクと連絡を取れると嬉しい。そうすれば、直接ではなくともみんなが今何をしているのか、知ることができるだろう。
 そう考えたときだ。
 ふっと、いやな予感がわき上がってくる。
「……オーブから誰かが来る予定はないですよね?」
 まさかと思いますが、とキラは付け加えた。
「私は聞いていないが……何故かな?」
「ギナ様が押しかけてきたら怖いな、と思っただけです」
 いろいろな意味で、と彼は続ける。
「……ない、とは言い切れないね」
 いや、十分にあり得るのではないか。
「ミナ様が面倒くさがって放り出した可能性がありますから」
 そのたびに押しつけられたのは自分だ。
 もっとも、それはあまりいやではない。自分に被害が及ぶことは皆無だと言っていい。
 その代わりに、周囲の被害が大きくなるだけだ。
「早々にサハクと連絡を取らないといけないね」
 対策をとるためにも、とギルバートはため息をつく。
「ますます忙しくなるね」
 さらに彼はこう続ける。
「すみません」
 キラは反射的にこう言ってしまう。
「君が謝ることではあるまい。すべてが終わったら、しっかりと文句を言わせてもらおう。ロンド・ミナ・サハクに」
 ため息とともにギルバートはそう言った。
「そのためにも、この戦いを終わらせなければいけないわけだが……」
 そのためにはどうすればいいのか。落としどころが見つからない。ギルバートのそのつぶやきに何と言い返せばいいのだろうか。キラにはわからない。
「まぁ、そのあたりはこれから話し合えばいいことだ」
 裏で、と付け加える彼の表情がとても悪役っぽく思える。
「ギル……悪者ですよ、それでは」
 キラがそんなことを考えていれば、お茶を持ってきたレイがしっかりと指摘してくれた。反射的にキラも首を縦に振ってみせる。
「おやおや。私が悪者なら、ラウは何なのかな」
 この言葉とともにギルバートは楽しげな笑いを周囲に響かせた。


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最遊釈厄伝