空の彼方の虹

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 ギルバートは目の前に現れた人物をにらみつける。
「いったい何のご用でしょうか、ザラ国防委員長」
 自分になど話はないのではないか。言外にそう付け加えた。
「クルーゼ隊長が保護をして、君が引き取っている少年のことでな」
 それに彼はそう言い返してくる。
「あの子が何か?」
 いったい、何に気づいているのか。それとも、かまをかけているだけなのか。そう思いながら聞き返す。
「オーブ籍だと聞いているが」
「はい。居住地はアメノミハシラ、になっていますね、今は」
 一時的にオーブ本土に住んでいたこともあるが、とギルバートは口にした。同時に、目の前の相手の反応をさりげなく観察する。
「アメノミハシラ?」
 かすかな動揺と失望が彼の表情を一瞬よぎった。だが、それはすぐに消えた。
「確か、サハクの本拠地だったか?」
 オーブの五氏族のひとつでありながら、彼らの本拠地はオーブ本土にはない。立ち寄ったときに使う館があるだけだ。
 代わりに、彼らは宇宙に巨大な力を有している。
 オーブの宇宙軍を始め、オーブ籍のプラントをほぼ掌握していると言っていい。
「えぇ。しかも、彼とその兄は、サハクの双子に近い場所に住居を与えられています」
 両親をテロで失ってから、あの双子が彼らの保護者代わりだ、と続けた。
「それがどうか?」
 このくらいは教えてもかまわない。すべてのデーターにそう記されている。そして、それを作り上げたのはサハクとアスハだ。いくらパトリック・ザらとは言え、矛盾点を見つけることは不可能だろう。
「いや。息子の知人と同じ名前なのでな」
 気になっただけだ、と彼は続ける。
「煌星、と言う意味だそうですよ。彼の父親は船乗りだったそうですから」
 自分達を導いてくれるもの、と言う意味らしい。
「船乗りやその関係者には比較的多い名前だ、とも聞いています」
 だから、同じ名前がつけられたとしても不思議でも何でもないのではないか。
「……そうか」
 まだ納得できていないのか。彼は渋面を崩さずにうなずいてみせる。
「まだ、何か?」
 それに気づかないふりはしない方がいいだろう。そう判断をして、ギルバートはそう問いかけた。
「いや……とりあえずは、ない」
 とりあえず、ときたか。ギルバートは内心、そう呟く。
「時間をとらせたな」
 だが、パトリックはこう言うと強引に会話を終わらせる。
「いえ」
 だが、こちらとしてもそれは望ましいことだ。だから、あえて引き留めるようなことはしない。
「では、私はこれで」
 ギルバートの言葉に、パトリックはうなずいてみせる。
 それを確認して、ギルバートはゆっくりときびすを返す。そのまま、ゆっくりと歩き出した。
 本音を言えば、駆け出したい。
 しかし、それを実行できるほど、自分は子供ではないのだ。
 それにしても、どこで《キラ》のことが彼にばれたのか。いや、正式な手続きを踏んだ以上、報告は伝わっていたかもしれない。だが、それはよくあることでもある。彼らが普通であれば興味を持つはずがないのだ。
 おそらく、何か別の理由があったのだろう。
 だが、それがなんなのか。そして、彼がどこまで気づいているのか。推測以上のことはできない。
「……厄介な」
 思わずこう呟いてしまう。
「それでも、あの子を護るのは私たちの義務だから、ね」
 さて、どうしようか。
「どなたか、味方についてもらえそうな方がいないか。それを確認しよう」
 そして、どこまであちらに気づかれているのかもだ。
「どちらにしろ、本人には伝えないわけにはいかないだろうね」
 できれば、こんなことは伝えたくないが仕方がない。そう判断をすると、ギルバートは自宅へと向かった。


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最遊釈厄伝