空の彼方の虹

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  39  



 補給船とともにキラはプラントへと向かった。
「あちらでのことはあの男に任せるしかあるまい」
 それはそれで難しいだろうが、とラウはため息をつく。だが、レイがそばにいれば防波堤になってくれるだろう。
「後問題があるとすれば、アスランか」
 彼がパトリックに余計な連絡を取らなければ、キラのことを気づかれずにすむのではないか。
 だが、このままではどうなるかわからない。
「二年半という時間は大きいのかどうか。それは誰もわからないからね」
 ため息とともに彼は続ける。
「ともかく、アスランの主張を確認するか」
 何故、あそこまで今の《キラ》をあの頃の《キラ》と同一視するかを、だ。
「何を言われても、たたきつぶすがな」
 アスランの考えは、と付け加える。
「あの子があれだけ怖がっているんだ。二度と近づけないようにするのが保護者としての役目だろうしね」
 キラの――いや、キラを含めた者達の幸せは、彼を排除することから始まる。だから、とラウは唇の端を持ち上げる。
「ここには君の味方はいないよ、アスラン・ザラ」
 アスランの最初の言動と、キラのおびえた様子を見れば、どちらに味方をするか言わずとも決まっているだろう。
 だから、どうあがいてもアスランには勝ち目がない。
 心の中でそう呟いたときだ。
『隊長。アスランを連れて来ました』
 ドアの外からミゲルの声がする。
「開いているよ。入りたまえ」
 即座にそう言い返す。そうすれば、周囲を仲間達に囲まれたままアスランが中に入ってくる。
「さて、アスラン・ザラ。そろそろ頭が冷えた頃だろう。先日の命令違反についての弁明を聞かせてもらおうか」
 言葉とともにラウはアスランをにらみつける。
「自分は……」
 何と言えばいいのだろうか。アスランは一瞬、考え込んだようだ。
「オーブがどれだけ地球軍と癒着していたのか。それを知りたかっただけです」
 だが、すぐにこう口にする。
「……ストライクとの通話記録にはそのようなことは残されていなかったが?」
 ため息とともにこう聞き返す。
「それは……」
「浅はかなごまかしはやめるのだね」
 この言葉にアスランは唇をかむ。
「そもそも、何故、君は《キラ》くんに固執したのか。それが原因のようだが?」
 このままでは何も言うまい。そう判断をして、ラウは水を向ける。
「キラ・ヤマトは、オーブ籍の私の幼なじみです。彼と同じ瞳と髪の色をしていました。あの瞳の色を持った人間を、自分は他に知りません」
 そうすれば、彼はきっぱりとそう言った。
 確かに、キラの瞳の色は独特だ。カナードのそれもよく似ているが、微妙に異なる。だが、それでは同一人物だという理由にならないだろう。
「お前の幼なじみって、年下だったのか?」
 ラスティがそう問いかける。
「いや、同じ年だ。あいつの方が半年ほど年上か」
 アスランは何かを思い出そうとするように目を細めながらこう言った。
「……だったら、どうしてそれがあいつと同一人物になるんだよ」
 何度も言っているが、とディアッカはため息をつく。
「それは……何か事情があったんだ」
 見た目がそっくりだから、とアスランは言う。
「他人の空似っていうのじゃねぇの?」
 あきれたようにミゲルが口にする。
「他人ではないから、だろう」
 ラウはため息とともにそう言う。
「先日、本国に通信ができたので調べたが、彼と君の言う《キラ・ヤマト》とはいとこ同士だそうだよ。もっとも、ヤマト家に嫁いだ彼の叔母が勘当状態だったためにつきあいはなかったようだがね」
 血縁関係がある以上、似ていても仕方がない。ラウはそう言う。
「……いとこ」
「そう。私は彼の母君と知り合いだったからね。ヤマト家とはつながりがなかったから今まで気づかなかったのだよ」
 だから、とラウは続ける。
「君のことをあの子が知らなくても当然だろうね」
「……嘘だ……」
 まだ信じられない、とアスランは呟く。
「残念だが、オーブのデーターにはそうある」
 自分の記憶と一致している以上、偽造されたものだとは思えない。ラウはさらに言葉を重ねた。
「つまり、君は自分の私情だけで隊を危険にさらしたと言うことだね」
 ため息とともにそう告げる。
「自分は!」
「その気がなかったとしても、現実問題としてそうなっていたと言うことだ。それだけではない。無関係な相手の心の傷も無遠慮にえぐってくれたようだしね」
 そう言うことだから、とラウは言葉を重ねた。
「今しばらく、営巣で頭を冷やしていたまえ」
 自分の非を認識できるまで、と続ける。
「話はこれまでだ。君がこれほど愚かだと思わなかったよ」
 本国に戻ると同時に、別の隊に移動させた方がいいだろうか。それとも手元に置いておいて身軽べきか。それに関してはしばらく考えよう。ラウは心の中でそう呟いていた。


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最遊釈厄伝