空の彼方の虹
37
いったい、何故、ヘリオポリスが崩壊したのか。どう考えてもわからない。
「コアブロックへの攻撃は、ありませんでした」
ミゲルは肩を落としながらそう言う。
「そもそも、あんな風に全体が一度に崩壊するものなのでしょうか」
ニコルが戸惑いを隠せないという表情のまま疑問を口にする。
「何が言いたいのかね?」
ラウは即座にニコルに問いかけた。
「誰かが故意に行ったのではないか。そう考えただけです」
普通の爆破や攻撃では、あそこまできれいに崩壊するはずがない。もっと時間差があるはずだ。そう彼は続ける。
「なるほど」
よい点をついている。ラウは心の中で呟く。
「ってことは、目的は証拠隠滅か?」
即座にディアッカが口を開いた。
「可能性は否定できないな。だとするなら、犯人は地球軍だろう」
イザークもこう言ってうなずいている。
「問題は、証拠がないことだよな」
ため息とともにミゲルがそう言った。
「ザフトがヘリオポリスないで軍事行動をとったのを見た人間は多い。そうなれば、当然、犯人はこちらだと考えるだろう」
厄介だよな、と彼はさらに言葉を重ねる。
「証拠さえあれば覆せるけどな」
「無理だね」
即座にラスティがそう言う。
「残っていたとしても、犯人はオーブの人間だというものしかないと思うよ」
自分達が直接手を下すはずがない。そのくらいの工作はしているだろう。
「そう言うことだ。我々は、今まで以上に慎重な行動をとらないといけないわけだよ」
そうでなければ、プラントはオーブまでも敵に回すことになる。
「アスランがもう少し考えて行動してくれればよかったのだがね」
今更言っても仕方がないことだが、とラウは付け加えた。
「そういえば、アスランはどこですか?」
あれから姿を見ていないが、とイザークが問いかけてくる。
「営巣だ。命令違反をしたんだから、当然だろう」
その言葉に、ニコル達は一瞬、顔をしかめた。
「まぁ、当然だな」
イザークが吐き捨てるように言う。
「あいつがすべて悪いとは言わない。だが、秩序を乱したのは事実だ」
「確かにな。いい加減、頭を冷やしてもらわねぇと安心して作戦に参加できないからな」
今後も同じようなことを繰り返すなら、と言うのは当然の主張だろう。
「それで、俺たちは今後どうするんですか?」
話題を変えるかのようにミゲルが確認の言葉を口にする。
「補給が完了次第、足つきを追う。あれは放置しておけないからね」
拿捕するか、最悪、撃破しなければいけないだろう。ラウはそう言った。
「あの……」
おずおずとニコルが声をかけてくる。
「何かね?」
「キラ君は、どうなりますか?」
同行させるのか、と彼は続けた。
「キラ君は補給の艦とともに本国へ移動してもらうことになる。その方が彼のためにもいいだろう」
アスランから離れられるからね、と告げなくても皆にはわかったようだ。
「その後でオーブに戻るか、それとも本国にとどまるのか。それはサハクとの話し合い次第だろう」
キラの保護者はサハクの双子だ。だから彼らとの話し合いが必要になる。
「それまでは、私の家で過ごしてもらうことになるだろうね」
どこにしろ、アスランがいなければキラは安心できるだろう。それに、レイがそばにいれば、他の厄介事もシャットダウンしてくれるはずだ。
「それならば安心ですね」
少し寂しいが。ニコルの言葉に周囲の者達もうなずいてみせる。
「何。早々にこの戦いを終わらせれば、いつでも会いに行けるようになるだろう」
ラウのこの言葉に、彼らはしっかりとうなずいて見せた。