空の彼方の虹
36
MSを動かしているのとは違う振動が伝わってくる。
「何だ?」
カナードは眉根を寄せながらそう呟いた。
「何が起きている?」
戦闘中のMSにまで伝わってくる振動だ。普通の事故ではあり得ない。もっと、厄介なことが起きているのではないか。
そう考えた瞬間だ。
ヘリオポリス内に警報が鳴り響く。それも、緊急避難の、だ。
「何があった?」
これはコロニー自体に危険が迫っているときにしか出されなかったはず。
「ザフトが何かをしたのか?」
可能性は否定できない。
だが、ラウがいてそのようなことをするだろうか。
そんなことをすれば、後々困るのは彼の方なのに、とカナードは眉根を寄せる。
もっとも、彼が関知していないと言うのならば、十分にあり得る話だ。
「……全く……余計な紐さえついていなければ、確認しにいけるものを」
下手な動きをすれば、カガリの身に危険が迫りかねない。
『何を考えているんだ、お前は!』
戦いに集中しろ! とアスランが叫ぶ。
「いい加減、お前と遊ぶのも飽きたな」
この状況に違和感を覚えないとは、とあきれる。そう付け加えた。
「さっさと退場してもらうか」
この言葉とともに、カナードは一息にストライクをイージスに接近させる。
「真実を知りたければ、自分でつかめ」
できるものならば、と付け加えると、イージスの足の関節を破壊した。
『何!』
信じられない、とアスランが言う。だが、カナードはもう、言葉を返すことはなかった。
「嘘だろう」
さすがに、その事実をすぐに受け入れることはできない。だが、時は止まってくれないのだ。
「ラミアス大尉!」
反射的にムウは艦長席の彼女の名を呼んだ。
「何故、ヘリオポリスが崩壊を……」
コアブロックに攻撃を加えてはいないのに、と彼女は呆然と呟いている。
「今はそれどころじゃない! このままだと、俺たちまで崩壊に巻き込まれるぞ」
自分達だけならばいい。だが、この艦には民間人も乗り込んでいるだろう、とムウは叫ぶ。
「え……えぇ、そうでしたね」
自分達が強引に連れ込んだ少女のことを思い出したのだろう。ラミアスは小さくうなずく。
「アークエンジェル、発進します」
そして、彼女はこう命じた。
「了解」
即座に言葉が返される。
「ストライクはどうしている?」
バジルールが背後にそう問いかけた。
「大丈夫だろう。あいつなら、適当に合流してくる」
こちらには人質がいるだろう、と言外ににじませながらムウは付け加える。
「動けるようなら、な」
小声でムウはそう言った。
カナードの技量であれば心配はいらないと思う。だが、プラントの崩壊という要因が加われば何が起きるかわからないのだ。
「ザフトの艦の位置は?」
「本艦とは逆方向のデッキです」
ラミアスの問いかけに、すぐに言葉が返される。
「うまくいけば、あちらを振り切れますね」
バジルールがそう口にするのが聞こえた。
「……そう、うまくいけばいいがな」
相手はラウだ。そう簡単にあきらめるとは思えない。
おそらく、この艦を拿捕するまでは追いかけてくるだろう。
あちらに拿捕された方が、自分としては楽だけどな。ムウはこっそりと心の中で呟いていた。