空の彼方の虹

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 誰かに呼ばれたような気がして、キラは視線をあげる。
「どうかしたのか?」
 それに気づいたのか。ベッドの上から声をかけられた。
「誰かに呼ばれた気がしたのですが、どなたか、呼びました?」
 それにキラは言葉を返す。
「いや? 誰も呼んでいないぞ」
 すぐにこう言い返される。
「そうですか」
 では、気のせいだったのだろうか。そう考えたときだ。また彼の名を呼ぶ声がする。
 改めて聞いたその声にキラは聞き覚えがあった。
「……兄さん?」
 間違いなく、それはカナードのものだ。
 しかし、何故、彼の声が聞こえるのだろうか。すぐそばにいないのに、と首をかしげる。
 それとも、自分達の生まれが特別だから、なのか。
 そういえば、ラウとムウは、離れた場所にいてもお互いの存在がわかると言っていた。それと同じことなのかもしれない。
 今まで、それに気づかなかったのは、こんなに長い間、離ればなれになったことがないからではないか。
「近くにいるのかな、兄さん」
 予定であればヘリオポリスで合流することになっていた。だが、予定が変わったのだろうか。
 それとも、と心の中で呟く。
 自分がヘリオポリスのそばまで来ているのか。
 おそらく、後者なのではないか。キラはそう思う。ならば、ニコル達の作戦というのはヘリオポリスに関わりがあることなのだろう。
「……MSの奪取?」
 一番可能性が高いのは、それではないか。同時に、そうならば、ラウが自分に告げなかった理由も理解できる。
 しかし、だ。
「みんな、無事だといいけど」
 カナードがその気になれば、ラウ以外は瞬殺ではないか。それは大げさでも、そう簡単には勝てないだろう。
 同時に、ヘリオポリスの人々にも危険が及ばなければいい。
「何事もなければいいな」
 戦争がおこわなれているのに、そんなことはあり得ない。それはわかっていても、ついつい呟いてしまうのは、自分がオーブの人間だからだろうか。
「……兄さんのそばにいたいな」
 小さなため息とともにキラはそう呟いた。

 鈍い音とともにギナは目の前の男を片手で壁へと押しつける。
「何をしていたのか、話すのだな」
 相手のあごをぎりぎりと締め付けながらそう言った。
 そんなことをすれば話しなどできないと言うことはわかっている。何かを言おうとする態度を見せれば、そのときは解放してやろうとも考えていた。
 しかし、だ。
 相手はそんな様子を見せることはない。逆にあざ笑うかのような表情を作った。
「もう、遅い」
 そして、絞り出すような声でそう告げる。
「貴様!」
 さらにぎりっと相手のあごをつかむ手に力を込めたときだ。
 背後から小さな爆発音が響いてくる。
「何だ?」
 反射的にギナは振り向く。
 その瞬間、腕から力が抜けてしまった。
 同時に、何かをかみ砕くようなささやかな音が耳に届く。
「しまった!」
 どうやら、歯に仕込んでいたカプセルをかみ砕いたらしい。中身は毒物だったのではないか。つり上げた男の体が小さくけいれんを始める。
「それほどまでに、己のしたことをごまかしたいのか」
 それはかなり厄介なことなのではないか。そう推測できる。
「ミナに怒られるな」
 相手に死なれたのは、間違いなく自分の失態だ。
「ともかく、何をしようとしていたのか。確認しないといけぬな」
 まずは、爆発の確認か。そう呟くと、男の体を放り捨てる。床にたたきつけられても、もう、男は動くことはなかった。


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最遊釈厄伝