空の彼方の虹
34
アカデミーでは常にベスト3から落ちたことはない。クルーゼの隊に配属されてからも、シミュレーションではそれなりの成果を出していた。
だから、誰が相手だろうとそれなりに戦えると信じていた。
しかしだ。
ここまで手も足も出ないとは、自分自身が信じられない。
「隊長が相手なら、あり得るかもしれないが」
しかし、ナチュラルにそんな相手がいるとは思えない。いや、いるはずがない。
だが、相手がナチュラルでなければどうだろうか。
地球軍にも少なからずコーディネイターがいると聞いたことがある。あるいは、モルゲンレーテの人間かもしれない。
そこまで考えたとき、ある面影が浮かび上がった。
「カガリのそばにいたあいつは……間違いなく、コーディネイターだった」
ひょっとして、ストライクに乗り込んでいるのは彼なのだろうか。
いや、ひょっとしなくてもそうに決まっている。
「と言うことは、カガリがそばにいるのか?」
それとも、と眉根を寄せた。
「地球軍に合流したのか、お前は」
何故、と思わずにいられない。
「ともかく、確認しないといけないか」
ストライクのパイロットが誰なのか。そう呟くと、通信機へと手を伸ばす。
「誰だ、お前は」
そして、こう問いかける。
『……カガリの話だけでも『馬鹿だ、馬鹿だ』と思っていたが、実際に馬鹿だったんだな、お前は』
即座に聞き覚えがある声が返ってきた。
「やっぱり、お前か」
同時に、これだけの実力の持ち主がいるとは、オーブはやはり侮れないと思う。
「何故、地球軍に協力をしている!」
オーブの人間が! と叫ぶようにアスランは口にした。
『こちらにも事情がある。だが、それをお前に説明する必要はない』
とりつく島もない、と言うのはこういうことを言うのだろうか。冷たい声音でそう言い返される。そこには明確な拒絶が含まれていた。
しかし、その程度で引き下がるわけにはいかない。
「カガリはどうした!」
彼女には聞かなければいけないことがある。
『それを聞いてどうする?』
言葉とともにストライクがビームライフルの照準をイージスにあわせてきた。
「不本意だが、今となってはあいつだけだからな。キラのことを話せる相手は」
母はすでにこの世の人ではない。
そして、父とは、それ以前から必要最低限の言葉を一方的にされるだけだ。
『それはお前の感情だろうが』
あきれたように相手は言ってくる。
『あいつはお前と話をしたいとは考えていないな』
自分もそうだが、と彼は続けた。
「それこそ、あいつの感情だろう!」
昔から、ものすごく相性が悪かったことは否定できない。それはキラの取り合いをしていたからだ。
しかし、キラを心配する気持ちは同じはず。
それなのに、と思う。
「俺は、キラの無事を知りたいだけだ!」
どうして、その気持ちすらカガリは否定しようとするのか。
『キラ・ヤマトは死んだ。そう言ったはずだ』
「嘘だ!」
彼の言葉に、アスランは即座に言い返す。
「キラが……あいつが死ぬはずがない!」
絶対に、と続ける。
『いや、あいつは死んだ。殺された、と言った方が正しいが』
淡々とした口調に怒りがにじんでいた。
「殺された?」
しかし、それよりも『誰に』という疑問の方がアスランには重要だ。
『そう、殺された。家族もろとも、ザフトに』
さらに重ねられた言葉は、とても信じられるものではない。
「嘘だ!」
アスランはそう叫んでいた。