空の彼方の虹
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その報告に、ミゲルは本気で頭痛を覚える。
「見かけたら背後から撃ち落としてもいいですか?」
アスランを、額に手を当てながら問いかけてしまった。
『まぁ、ほどほどにな』
それにラウが苦笑混じりに言い返してくる。
『それよりも、無駄な時間を使わないように』
さらに言葉を重ねられた。その裏で彼が何を考えているのか、ミゲルにもすべてはわからない。だが、彼が何を言いたいのかはわかっている。
「了解です。早々に追い出します」
アスランのことは後回しでいい。そう判断をする。
『必要なら、私も出るが?』
確認するようにラウがさらに言葉を影かけてきた。
「極力、そうならずにすむようにします」
彼が出てくるような状況を作れば、後でどれだけ嫌みを言われることか。しかも、今回はアスランのこともある。自分の責任ではないとはいえ、間違いなく飛び火してくるに決まっている。ミゲルはそう考えると深く息を吐いた。
「ストライクが出ているようですが、アスランに任せればいいでしょうし」
そのくらいは役に立ってもらってもかまわないだろう。負けたなら負けたで、いい薬になるのではないか。
『かまわないが……ストライクは強いよ』
ラウの言葉にミゲルは眉根をよせた。
「何かありましたか?」
悪い予感とともに問いかける。
『マシュー達が機体を失ったようだよ。本人達は無事なようだがね』
「マジですか?」
あの二人が、と反射的に叫ぶ。
『しかも、一撃らしい』
そんなことができるパイロットがいたのか。そう考えると同時に、その相手と戦いたいとも思う。
だが、今はそれよりも先にしなければいけないことがある。そう自分を戒めた。
「なら、アスランのお仕置きにはちょうど良さそうですね」
そういう相手ならば、本気で彼の鼻っ柱を叩きおってくれるだろう。
『そういうことにしておこう』
ラウはあっさりとうなずいて見せた。
「では、俺は当初の作戦通りに動きます」
イレギュラーに足を引っ張られるわけにはいかない。そう判断をしてこう告げる。
『頼んだよ』
「了解です!」
言葉とともにミゲルはジンをモルゲンレーテのデッキへと向けて発進させた。
その光景をギナはコロニー中央部にある管理施設から確認していた。
「さて、どうするかな」
キラはラウとともにザフトの艦にいる。
カナードとカガリはムウとともに地球軍の新造艦に乗り込んだ。
とりあえず、キラの方は心配はいらないだろう。
「……カナードは心配いらぬと思うが、問題はカガリか」
彼女が爆発をした場合、ムウでもフォローをするのは難しいのではないか。
「しかし、あれを早々に放り出したいのは事実だからな」
アークエンジェルさえ放り出せば、ヘリオポリスは無事だろう。ラウもその程度の配慮はしてくれるはずだ。
その後で、自分もここから離れればいい。
「カナード達と合流するのはその後でも十分か」
アークエンジェルは間違いなく地球を目指すはず。その間であれば、どこでもかまわないだろう。
「では、まずあれを……」
そう言いながら、ギナがきびすを返そうとしたときだ。通路の方に人の気配を感じる。
「今、ここには私以外いないはず」
そう手配をした。それなのに、何故、人の気配があるのだろうか。
「確認せねばなるまい」
不本意だが、と彼は続ける。
「私もサハクの人間だからな」
この言葉とともに、ギナは行動を開始した。