空の彼方の虹
32
とりあえず、こちらの希望を飲ませることに成功した。
「後は適当なところで逃げ出せばいいだけのことか」
問題は、とカナードは心の中で呟く。カガリがあの艦にとどまっていることだろうか。
「あの人がいるから、危険はないと思うがな」
しかし、本人がどのような行動に出てくれるのかがわからない。だから、怖いのだ。
「おとなしくしておけ、とは言ったがな」
さらにそう付け加えたときである。センサーにジンが引っかかった。
「……やはり出てきたか」
彼らしい、と口の中だけで付け加える。
「アークエンジェルをおびき出して一気に鹵獲するつもりか」
おそらく、自分でも同じ判断を下すだろう。
ただ、とカナードは心の中で付け加える。問題があるとすれば、ここは民間人が多く居住しているオーブのプラントだと言うことだ。
彼らに被害を及ぼすわけにはいかない。
そう考えれば、戦いに使える場所は限られてくる。
「……いい加減、動いてくれてもいいと思うがな」
唇の動きだけで相手の名を呼ぶ。
「どうせ、近くで見ているんだろう」
それでも姿を見せないのには、何か理由があるのだろうか。それが何なのかまでは、本人でないからわからない。
「全く」
いい気なものだ。そう呟きながらカナードはビームライフルを用意する。
「先手必勝、だな」
照準をロックすると、ためらうことなく引き金を引いた。
一瞬の間の後に、ジンの両足が吹き飛ぶ」
「まずは一機」
後何機出てきているだろうか。
「奪取された機体が出てくると厄介だな」
設計図をざっと見ただけだが、それぞれが厄介な機能を持っている。
奪われたばかりでそれを使いこなせるとは考えていない。だが、フェイズシスト装甲だけでも十分厄介だ。
そんなことを考えていたときだ。
『よくもマシューを!』
脇からそんな声が飛んでくる。
「二機目か」
仲間思いなのはいいが、と呟きながらカナードは銃口の位置を変える。そのまま、彼はまた引き金を引いた。
「機体はともかく、脱出はできれば命は心配ないからな」
ジンがゆっくりと倒れる。だが、あれならば脱出に支障はないはずだ。
「相手を殺さなくても、機体を全部つぶせば相手の動きは止められるからな」
仕事ではないし、と彼は続ける。
そのときだ。
「……イージス?」
ここに来るとは思っていなかった機体の識別信号を見つけて、カナードは眉根を寄せる。
「あれに乗っていったのはあいつだったが……」
まさか、と彼は続けた。
「お前か、アスラン・ザラ」
いったい、何をしに来たのか。
「まぁ、いい」
だが、すぐに表情を引き締める。
「お前が相手なら、遠慮はいらないか」
だが、殺すわけにはいかない。殺したいのは山々だが、そうしてしまえば、今後の行動がかなり制限されるだろう。
それでも、この場から彼を退場させることはできるはずだ。
「もう二度と、俺たちの前に顔を出せないよう、徹底的に叩いておくか」
そのままプラントに戻ってくれれば、それが一番いい。
「悪く思うなよ、アスラン・ザラ」
恨むなら、自分達の間に割って入ろうとした自分を恨め。そう続けると、カナードはどう猛な笑みを浮かべた。