空の彼方の虹
31
「アスランが出撃をした?」
その報告に、ラウは仮面の下で目をすがめる。
「誰が許可を出した?」
そんな人間はいないだろう。そう思いながら問いかける。
「誰も出しておりません」
即座に言葉が返された。
それは当然だろう。自分がそう指示を出したのだ。
「連れ戻しますか?」
イザークが問いかけてくる。
「今更無駄だろう。それに、下手に動くと作戦が失敗しかねない」
だから放っておけ、と続けた。
「ミゲル達には伝えておくように。それと一応、モニターだけはしておけ」
ラウはそう言う。本音を言えば、どうでもいい。しかし、放置しておくこともできないだろう。
「了解です」
ラウの言葉に、クルーは即座に行動を開始する。
「いったい、何を考えているんだろうな、あいつ」
ディアッカがため息とともに口にした。
「僕に聞かないでください」
ニコルがすぐに言い返す。
「最近、あの人が何を考えているのか、全くわかりません」
彼にしてみればそうだろう。だが、ラウには想像がついていた。と言うよりも、アスランが考えることなどひとつしかない、と言った方が正しいのか。
おそらく、キラのことを確かめに行ったのだろう。
無駄なことを、と思う。
事情を知っている者達は誰も、彼に真実を告げようとは考えない。まして、彼が接触しようとしているのがカナードであればなおさらだ。
逆に、撃墜されるのではないか。
それならそれで、後腐れなくていいような気がする。
だが、彼はそうしないだろう。
「状況次第では、私も出る」
そのような状況にならなければいい。だが、すでに予想外のことが起きている以上、ないとは言い切れないのだ。
「わかりました」
即座に言葉が返ってくる。
「アイマン機、ヘリオポリスに突入しました」
同時に、別のクルーから報告が伝えられた。
「さて……上手くあぶり出されてくれるといいのだが」
その瞬間、ラウの脳裏からアスランのことはかき消される。
「ミゲル達ならば心配はいらないと思うが……」
だが、相手はムウだ。何をしてくれるかわからない。
「何があってもフォローできる体勢をとっておかないといけないだろうね」
上手くできればいいが。そんな不安が心の中をよぎる。だが、それを表に出すわけにはいかない。
そうすれば、隊の者達にも不安が伝達してしまう。
最悪、作戦が失敗しかねない。
そうさせないためにも、自分の不安は隠さなければいけないのだ。
「予定通りであれば、私が出る必要はないはずだが」
戦闘で予定通りにすんだことはない。心の中でそう付け加える。
「自分で出るのが一番、気が楽だね」
「やめてください、隊長。我々ではフォローできません」
ラウの言葉に、即座にアデスが言葉を投げかけてきた。
「わかっているよ。だから、ここで我慢しているだろう?」
ため息とともにラウはそう言い返す。
「そうしてください。我々の胃のためにも」
アデスはさらに追い打ちをかけてくれる。それにラウは苦笑を返すしかない。
「あきらめてくれるかな、それは」
その表情のまま言葉を口にする。
「マシュー機、戦闘に入りました」
この報告に、周囲は緊張の包まれた。