空の彼方の虹
30
とりあえず、イージスのOSは使い物になるのではないか。アスランは心の中で呟く。
「カガリに確認しないと」
本当に《キラ》は死んだのか。
そうだとするなら、いったいどうして死んだのだろうか。
もちろん、アスランは今、ガモフにいる《キラ》が自分の知っている《キラ》だと信じている。
それでも、万が一の可能性がないわけではない。そう思える程度にはカガリの言葉を信用している。
理由は簡単。
彼女も自分に負けないくらい、キラのことを大切に思っていたからだ。
「忌々しいと思っていたのにな」
彼女の存在が、と心の中で呟く。その彼女の存在をありがたいと思う日が来るとは思わなかった。
「だが、真実を知っているのは、あいつだけだ」
そして、自分には聞く権利がある。
だが、何故かラウはそのチャンスを与えてくれそうにない。
ならば自分でそれをつかむまでだ。
そのためなら、多少の命令違反は仕方がない。
責められたとしてもかまわないとすら思える。
「キラも母上もいないのなら、世界なんてどうでもいい」
アスランはそう呟く。
「俺にとって世界は、あの二人がいたからこそ、意味があったんだ」
キラと別れても、母がいてくれたからまだここにとどまっていられた。
母が死んだときも、この世界のどっかでキラが笑ってくれていると信じていたからこそ、耐えられた。
だが、その二つとも失われたというなら、この世界がどうなろうと関係ない。いっそ、壊れてくれた方がすっきりするのではないか。そんなことすら考えてしまう。
もちろん『そんなことをするな』とささやいてくる声もアスランの中にはある。そうしても、あの二人は喜ばないとその声は続けている。
それはわかっている。
特にキラは、自分がそんなことをしたと知ったら許してくれないだろう。
それでも、記憶の中の彼だけでは自分をと止めるのは難しいのだ。
だから、カガリに確かめたい。
「真実を言わないと、俺は狂うぞ」
そう言って小さな笑みを浮かべる。
「さて……今なら出撃られるな」
周囲を見回すと、彼は小声で呟く。
「カガリがすぐに見つかればいいが」
だが、彼女は民間人だ。そう簡単に見つかるとは思えない。
「それでも、何とかしないといけないわけだがな」
自分の目的のためには。そう呟くと、イージスのコクピットへと体を滑り込ませる。
シートへと体を預けると、シートベルトで体を固定した。そして、そのまま、イージスを立ち上がらせる。
「アスラン・ザラ、出る!」
そして、この宣言とともに船外へと出て行く。
『アスラン・ザラ! 何をしている!!』
制止の言葉が耳に届いた。
だが、アスランはそれに言葉を返さない。ただ、まっすぐにヘリオポリスへとイージスを進めていく。
「まずは、ストライクを探さないと」
あれにはきっと、カガリのそばにいた男が乗っているはず。うまくいけば、彼女の居場所を聞き出すことができるのではないか。
「待っていろよ、キラ。俺は絶対、お前にたどり着く」
そして、この手に取り戻してみせる。アスランはそう呟く。
そのためならば、何を犠牲にしてもかまわない。
自分にとって大切なものをこの手に取り戻すことができるなら。
そう呟くと同時に、アスランは操縦桿を握り直した。