空の彼方の虹

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 周囲にエラー音が鳴り響く。
「ちっ!」
 その事実が忌々しくて、アスランは盛大に舌打ちをする。
「本当に、何を考えて開発されたんだ?」
 そのまま、こう呟いた。
「ともかく、これを使い物にしないと……」
 そして、とアスランは独り言を重ねる。
「あいつに会って話を聞かなければいけないな」
 ガモフにいる《キラ》に話を聞くことは、今は不可能だと言っていい。この前のことでますます警戒されているのだ。
 だが、カガリであればどうだろう。
 彼女の性格はキラほどではないがわかっているつもりだ。上手く誘導すれば自分が聞きたいことを口にさせることも可能だろう。
 そのためには、彼女にまた会わなければいけない。
 会うためには目の前の機体を使い物なるようにしなければいけない。
「戦闘中でなければ、あちらに戻れないからな」
 つまり、彼女に会う機会がないと言うことだ。
「……しかし、あの男は、誰だ?」
 カガリのそばにいた黒髪の青年。見覚えがないはずなのに、どこか既視感を抱かせた相手の正体がわからない。
「あの身のこなしから判断をして、それなりの訓練を受けた相手だとは思うが……」
 だが、軍人には思えなかった。
 かといって、モルゲンレーテのテストパイロットというわけでもなさそうだ。
 本当に何者なのだろう。
「……そうか。あいつの目の色もキラの瞳と同じ色なんだ」
 あの《キラ》と同じで、とアスランは続ける。
「ただの偶然とは思えない」
 それすらも確認できないのが悔しい。
「ともかく、これを終わらせないと話が進まないな」
 ため息とともにそう呟く。そして、またキーボードを叩き始めた。

 モニターに映し出されたヘリオポリスを見つめながら、ラウは次にどうするかを考えていた。
「さっさと出てきてくれれば楽なのだが……」
 そうすれば、拿捕するなり撃破するなりが可能だろう。だが、ヘリオポリスに籠城されてはとれる作戦は数少ない。
「あぶり出すか?」
 後で非難されるかもしれない。だが、反論ならいくらでもできる。
 問題は、いかに被害を少なくするか、かもしれない。
「アスランのこともあるしな」
 頭が痛い、とそう呟く。
「……本当に、何であそこまであの子に固執するんでしょうね、あいつ」
 そばにいたミゲルがそう問いかけてくる。
「そういえば、彼の様子は?」
 かなりショックを受けていたと聞いているが、とラウは聞き返す。
「とりあえず、一人で部屋にいるのは不安なようで……ニコル達がデッキに連れ出しています」
 奪取に失敗したラスティがそばに付いている。ミゲルはそう報告をしてきた。
「アスランの監視は?」
 ミゲルがここにいる以上、彼を野放しにしているのではないか。もっとも、あちらを固めている以上、対策をとることは難しくないのだろう。
「オロール達が見張っているはずです」
 即座に彼が言い返してくる。
「そうか」
 ならば、今は大丈夫だろう。
「問題は、次の作戦に移ったときだな」
 今回奪取してきた機体はまだ使えないだろう。そうなれば、当然、ミゲル達に任せるしかない。
 監視が手薄になったとき、アスランがどのような行動に出るか。
「……仕方がない。彼には医務室に移動していてもらうことにしよう」
 あそこであれば、いざというときには何とでもなるはずだ。
「ドクターに念入りに頼んでおけばいいか」
 キラの安全を最優先するように、とラウは続ける。
「……それは別の意味で怖いですね」
 ミゲルが即座にそう言った。
「別にかまわないだろう。命令違反をする方が悪い」
「確かに」
 ラウの言葉に彼はうなずいてみせる。
「ともかく、次の作戦が決まった。他の者達を集めてくれるかね?」
「了解です」
 言葉とともにミゲルは即座に行動を開始した。その姿を見送ると、ラウは視線をモニターへと戻す。
「さて……お前はどう出てくるかな、ムウ」
 そして、口の中だけでこう呟いた。


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最遊釈厄伝