空の彼方の虹

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  24  



 今は、こんなところにいる状況ではない。少しでも早くキラを迎えに行かなければいけないのに、と心の中で呟く。
「カナード兄さん」
 そのときだ。カガリの声が耳に届く。それに感情の色が見えないことにカナードは不安を覚える。
「実力行使、と言うのは、やっぱりだめか?」
 案の定、と言っていいのだろうか。彼女はこんなセリフを口にしてくれた。
「ムウさんに迷惑がかかる」
 不本意だが、とカナードは言外に付け加える。
「まだ、あの人には地球軍にいてもらわなければいけない」
 彼が地球郡内にいてくれるからこそできることも多い。
「黒幕がまだ出てこない以上、仕方があるまい」
 それを逃してはまた同じような連中が出てくるに決まっている。
 自分はそれでもかまわない。だが、キラはそうは考えないはずだ。
 何よりも鬱陶しい。
「やるなら、徹底的に叩かないとな」
 カナードはそう言って笑う。
「確かに。モグラたたきは厄介だから」
 そのくらいなら焼き払った方が簡単だ、とカガリが言い返してくる。
「……本当に過激だな、お前は」
 苦笑とともにカナードはそう言う。
「いけませんか?」
「いや。お前の立場ならそれでいいのか」
 後は自制を覚えなければいけないが、と続ける。
「……お父様にも言われた……」
 カガリは先ほどまでの威勢の良さはどこに行ったのか、と言いたくなる口調でぼそぼそと言う。
「当然のことだ」
 そのときに何かを言われたのではないか。そう推測するが、彼女のフォローは自分の役目ではない。だから、と一言だけ返す。
「カナードさんはキラには優しいけど、私には厳しい」
 もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか、とカガリは唇をとがらせた。
「キラは特別だ」
 カガリもかわいいとは思っている。しかし、キラは自分の中では別格だと言っていい。
「あいつがいるから、俺はここにいる」
 そうでなければ、さっさとすべてを破壊して終わらせている。そう言いきった。
「カナードさん……」
「キラがいれば大丈夫だがな」
 ラウの元にいれば安心だとはわかっている。しかし、自分の手の届く範囲に彼のぬくもりはない。その事実がこれほど辛いと思わなかった。
「どちらにしろ、いやになったらさっさと出て行くだけだろう」
 実力で、と彼は笑う。
「カナードさんがその気なら、私はかまわない」
 カガリはそう言ってうなずく。
「となると、後心配なのは、キラの方か」
 彼女はそう言って顔をしかめた。
「アスランがあいつのことに気づかなければいいんだが」
 もし、キラの存在に気づけば、何をしてくれるかわからない。表情だけで彼女はその懸念を告げてくる。
「そうだな」
 自分はそのとき、そばにいられなかった。だから、アスランがキラに何をしたのか、話でしか知らない。
 しかし、それでキラが傷ついていたという事実はよく知っている。
「でも、ラウさんが一緒だ。だから、心配はいらない、と思うが……」
 何か、いやな考えが脳裏をよぎり始めた。
 先ほど、ヘリオポリスを襲撃したザフトの中にアスランがいた。
 キラが向かっていたのは、そのヘリオポリスだ。
 そして、彼を保護したのはラウの隊だという。
「あいつがラウさんの部下だ、と言う可能性も否定できないわけだな」
 最悪だな、と続ける。
「早々にここを出て、ギナ様達と合流した方がいいかもしれないな」
 だが、その前にムウと相談をしなければいけない。
「本当に、あいつらは余計な事をしてくれたよな」
 カガリのこの言葉に、カナードも同意するようにうなずいて見せた。

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最遊釈厄伝