空の彼方の虹

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「本当に、しつこい奴だな!」
 反射的にこう口にしてしまう。
『私がそういう性格だと、一番よく知っているのはお前ではないかな?』
 即座にこう言い返される。その言葉の内容はともかく、どうやって通信をつないできたのか。そう思わずにいられない。
「俺たちが知り合いだとばれるとまずいだろうが!」
 誰かに聞かれたらどうするつもりなのか。言外にそう問いかける。
『心配はいらないよ』
 即座にラウが言い返してきた。
『これはキラが作ったシステムだからね。傍聴されないことは実験済みだ』
 その内容はムウの想像範疇を遙か彼方に超えたものだった。
「……はぁ?」
 何故、キラ……と思う。
『ギナが作らせたそうだよ』
 それなら納得できる。しかし、どうしてそれをラウが持っているのだろうか。
『そして、あの子は今、私が保護している。乗っていた船が地球軍に襲われたそうでね』
 それは聞いていなかった。ムウは心の中でそう呟くと顔をしかめる。
『だから、安心してくれていいよ。最低限、あの子の安全だけは保証しよう』
 ラウはそう言って笑った。
『何なら、君もこちらに来るかね?』
 さらに彼はこう付け加える。
『もっとも、キラと違って捕虜待遇になるがね』
 キラの待遇には最大限の配慮をしているが、と彼はまた笑い声を立てた。
「遠慮しておくよ!」
 言葉とともに、遠慮のない攻撃を加える。
「まだ、こっちでやっておいた方がいいこともあるようだしな」
 いったい、何故、キラが狙われたのか。それを確認しておかなければいけないだろう。
『残念だね』
 即座に反撃をしてくる。相変わらずかわいらしくないどころかえぐいとしか表現できない攻撃にムウの眉根がますますよった。
「嫌みな奴だな」
『お前ほどではない、と思うが?』
 こんな会話を交わしながらお互いに相手に攻撃を加える。
 ひょっとして、これも兄弟喧嘩というのだろうか。ふっとそんなことを考えてしまう。もっとも、キラやカナードならばともかく、ラウが弟というのはあまり嬉しくない。
「全く……キラぐらい、かわいげを見せろよ!」
 思わずこう呟いてしまう。
『お言葉だね。私だって、昔はかわいかったつもりだが?』
「いつのことだよ!」
 おむつがとれる頃にはもう、かわいらしさがなくなっていただろうが。そう言い返す。
『そうだったかね?』
「そうだよ!」
 本当に、とそう続けたときだ。
 視界の隅で、バッテリーの残量を知らせるシグナルがレッドへと変化したのがわかった。
「時間切れかよ」
 こんなときに、と思わず叫んでしまう。
『残念ながら、今回も引き分け、と言うところかな』
 不本意だが、とラウが言ってくる。どうやら、あちらもバッテリーの残量が心許ないらしい。
「そのうち、リベンジしてやる!」
 あるいは見逃してくれたのか。どちらにしろ、後退するなら、今しかない。
「キラのことは任せたぞ」
 この言葉で、全速でその場を離脱する。
『言われるまでもない』
 これが、今回の最後の会話だった。

 しかし、ラウ相手の方がマシだったかもしれない。そう思う状況が自分を待っているとは、この時のラウはまだ、想像もしていなかった。

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最遊釈厄伝