空の彼方の虹

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 船体が大きく揺れた。
「……戦闘?」
 反射的にベッドの枠へと捕まりながら、キラはそう呟く。
「地球軍に見つかったのかな?」
 もし、そうだとするならば、ニコル達も戦場に出ているのだろうか。
 可能性は否定できない。そもそも、彼らはその覚悟を持って軍人になることを選択した者達だ。自分には何も言えるはずもない。
「……無事で帰ってきてくれるといいんだけど」
 それでも、このくらいは許されるだろう、と思う。
「知っている人がいなくなるのは、やっぱりいやだから」
 気がついたら、そばにいる人が失われていた。そんな経験はもうしたくない。あの心臓が痛くなるような悲しみを感じるのは一度だけで十分だ。
 キラがそう考えているとわかっているからだろう。いくら誘われてもカナードが軍に入らないのは。そして、サハクの二人もウズミも知っているから、彼の自由にさせているのでないか。
「会いたいな」
 ふっとそんなつぶやきが唇から飛び出す。
「心配しているよね」
 連絡が取れないから、と続けた。
 それとも、ラウがすでに彼らに連絡を取っているのだろうか。
 どちらにしろ、彼は心配してくれているだろう。
「せめて、声だけでも聞きたいな」
 そうすれば、カナードだけではなく自分も安心できる。
「今回のことが終わったら、ラウさんに頼んでみようかな」
 わがままかもしれないけれど、と口の中だけで付け加えた。
 もちろん、相手が彼だからこそこんなことを考えているのだとキラはわかっている。他の誰かであれば、せいぜい、自分の無事を伝えてくれるように頼むので精一杯だろう。
 これも甘えなのだろうか。
 そう考えながら、ベッドの上で膝を抱える。
「早く、終わればいいな」
 この戦闘が、とそのまま口にした。きっと、こんなに不安を感じているのは、周囲の空気のせいだろう。
「どうして、戦争なんてするのかな」
 誰に聞いても答えを教えてはくれない。その疑問をキラはまた口にしていた。

 さて、こいつをどうしてやろうか。
 目の前に現れた相手を見て、カナードはそう心の中で呟く。
 いや、人目がなければ無条件で撃ち殺していたかもしれない。
 しかし、それをためらったのは、自分の隣にいる少女の存在のせいだ。
 キラとは違って、目の前で誰かを殺したとしても心を痛めることはないだろう。しかし、まだ、成人していない少女にそんな光景を見せる必要があるとは思えない。
 こんなことを考えているから、ギナには『弟妹に甘い』と言われるのだろう。
「……カガリ?」
 そんなことを考えていたときだ。目の前にいた相手が少女の名を呼ぶ。
「やっぱり、アスラン・ザラか」
 カガリが忌々しそうに言葉を返す。
「よくもまぁ、私の前に顔を出せたものだな」
 さらに彼女はそう続けた。その声には怒りすら感じられる。彼の名を聞いたところで、カナードにもその理由はわかった。
「キラが……」
 しかし、相手にそれは伝わっていないらしい。
「キラが死んだ、と言うのは本当なのか!」
 彼は叫ぶようにこう問いかけてくる。
「……お前のせいで、な」
 カガリは絞り出すような声でそう告げた。
「わかったなら、さっさと私の前から姿を消せ! でないと、私がお前を殺すぞ?」
 さらに彼女は物騒なセリフを口にしてくれる。
「カガリ!」
「うるさい!!」
 さらに詰め寄ろうとする彼に、カガリは手近にあった破片を投げつけた。
「お前さえいなければ、キラもおばさま達も、私のそばにいてくれたのに!」
 彼女の迫力に気圧されたかのようにアスランは一歩、後ろに下がる。
 その隙を見逃さずに、カナードはカガリの体を抱き上げた。そのまま、開かれたままのMSのコクピットへと体を滑り込ませる。
「なっ!」
「無駄な争いで体力を使うな」
 これからもっと厄介なことが待っているはずだ。そう続ける。
「あいつのことは他の人間に任せておけ」
 この言葉に、カガリが唇をかみしめたのがわかった。

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最遊釈厄伝