空の彼方の虹
18
精神をなでられるような感覚をラウは認識していた。
「おやおや」
口元に苦笑を刻む。
「奇遇と言っていいのかね」
それとも、必然なのか。どちらが正しいのだろう。
「あの子の話だと、間違いなく彼らも来ているだろうし……久々に身内が全員そろった、と言えるべきかな?」
あまり歓迎できない状況ではあるが、と続ける。
「まぁ、いい。後は上手く接触できることを祈ろう」
そうすれば、情報の共有ができるのではないか。
もっとも、と続ける。キラのことは彼には伝えないでおいた方がいいだろう。下手な動きをされて自分達のつながりがばれるのも困る。
「さて……そろそろ意識を切り替えないとね」
自分はザフトの隊長だ。例え相手が誰であろうと、負けるわけにはいかない。
今回の作戦事態、失敗するわけにはいかないのだ。
「キラのこともあるしね」
彼を無事にオーブまで届けなければいけない。そのためにも、失敗は許されないのだ。
「……アスランは帰ってこなくてもいいがね」
ふっと思いついて口にする。
そうすれば、キラの不安はひとつ消えるだろう。そして、作戦中の事故であれば、パトリック・ザラも何も言えないはずだ。
「部下の失敗を願うとは、悪い隊長かもしれないね」
それでも、自分だって人間だ。何があっても許せないと言うことがある。本人が加害者であることを認識していなくても、だ。
だが、それを本人達の前で出すわけにはいかないだろう。
こういうときに仮面をつけていられるのはありがたいかもしれない。
「さて、時間かな?」
言葉とともに立ち上がる。
「私の出番がなければ楽でいいがね」
そう呟く声は誰の耳にも届かなかった。
振動が体を包む。
「ザフトか!」
反射的にムウは床を蹴る。
「フラガ大尉!」
そんな彼にクルーが声をかけてきた。
「出撃する! 準備を頼む!!」
言葉とともに控え室へと体を滑り込ませる。そのまま、手早く着替えを開始した。
「全く……こんな場所で」
ヘリオポリスが近すぎる。あそこに被害が及んだらどうするつもりなのか。
「目的は、やっぱ、あれだろうな」
地球軍がモルゲンレーテの協力で作り上げたMS。それの破壊――あるいは奪取だろうか――だろう。
「どうせなら、受け取ってから襲ってくればいいのに」
あのひよっこどもは歩かせるのが関の山だぞ、と付け加えた。
後から襲ってくれれば、そちらの方が簡単に奪取できるものを、と続ける。
「そう言っても、こちらの事情なんてあちらには関係ないか」
そして、と続ける。
「俺はこの艦が無事に到着できるよう、努力するだけだがな」
軍人として命令されたことを遂行するのは当然のことだ。それがどんなに困難なことでも、だ。
「まったく……意地でも生きて帰らねぇとならないのに」
そう呟いたときだ。不意に何かが精神に触れてくる。
「……あいつが近くにいるのか?」
これは、と呟く。
ひょっとしたら、ザフト側の指揮を執っているのは彼なのかもしれない。
「まぁ、あり得る話だな」
厄介なことだが、と続ける。
「お互い覚悟の上か、それも」
適当なところで妥協してくれるといいんだが、と心の中だけで告げた。
「さて、と」
襟元を確認すると、ヘルメットに手を伸ばす。
「行きますか」
言葉とともに入り口へと向かう。彼が部屋から出ると同時に室内の明かりが消えた。