空の彼方の虹
17
今ならば、キラのそばにニコルはいない。
それがわかっていても、この場を抜け出すことはできない。その時いつが忌々しい、とアスランは思う。
「アスラン・ザラ?」
そのときだ。剣先のように厳しい声が耳朶を打つ。
「……はい」
そのせいだろうか。反応が一瞬遅れた。
「君をバックアップに回した方がいいかもしれないね」
きつい口調でラウが言葉を投げつけてくる。
「馬鹿」
「フォローのしようがないな、今回だけは」
アスランを挟むようにして座っているミゲルとラスティがあきれたようにそうささやいてきた。
「……まぁ、いい。失敗したとき、その代償を払うのは君だ」
ラウは感情を見せない口調でそう告げる。
「話を戻す。入手できた資料に寄れば、あちらの機体に積まれているOSはかなり稚拙なものらしい。その場で書き換える必要がある」
機体はともかく、OSの再現までは難しかった、と言うことなのか。
あるいは、テストはコーディネイターで行ったために、ナチュラル仕様に使用と思って失敗したのかもしれない。
どちらにしろ、こちらには都合がいいと言える。
「それと、できるだけ民間人に被害を出さないように。まだ、オーブとの関係を悪化させたくないからね」
食料を輸入に頼らなければいけないプラントの弱みだ。
「少ないとはいえ、同胞も居住している」
そう言われて、イザークは反論をあきらめたらしい。
「キラ君の話だと、ナチュラルと結婚している方も少なくないそうですから、その方々の恨みは買いたくないです」
いったいいつの間に、と思わなくもない。だが、彼がキラと同室だと思い出して納得をする。同時に、それは本来、自分の役目だったのに、とも考えてしまう。
「後、質問はあるかね?」
ラウのこの言葉に口を開くものは誰もいない。
「では、それぞれ、準備を始めたまえ」
この言葉に、彼らは一斉に行動を開始した。アスランの心残りだけを放置して、だが。
「何故、お前がここにいる?」
カナードは低い声で目の前の相手に問いかける。
「自分の目で確認するためと、ミナ様に用があったから」
後者はとってつけた理由だろう。カナードはそう判断する。
「ロンド・ミナなら昨日のうちにアメノミハシラに帰っているぞ。ウズミ様から連絡があったからな」
知らなかったのか、とそう聞き返す。
「お父様が?」
そんなことは言っていなかったのに、とカガリは唇の動きだけで呟いている。
「……お前、勝手に出てきたな?」
全く、とため息をついてしまう。
「想像はしていたことであろう?」
あきれたような声でそう言ってきたのはギナだ。
「おそらくそれが来るであろう、とミナも言っておったではないか」
「そうですが……できれば当たって欲しくありませんでしたよ」
ただでさえ、今の自分には心配事がある。さらにカガリまで押しつけられては困るのだ。
「あちらのことは心配ないだろう? あれがあの子を危険にさらすとは思えん」
ギナはそう言う。カナードもその一点に関しては不安を感じていない。
「やっぱり、あいつに何かあったんだな!」
問題があるとすれば、やはり彼女だ。
「おとなしくしろ、カガリ。そうでなければ、これからのことに支障が出てくる。そうすれば、あいつを守れなくなるぞ」
目をすがめると、カナードは言葉を投げつけた。
「あれも、いつまでも隠れて暮らすのは辛かろう。だから、たたけるものは徹底的に叩かないとな」
ギナもそう言って笑う。
「だから、お前はおとなしくしておれ。お前が傷ついても、あれは悲しむぞ」
彼の言葉にカガリは唇をかみしめる。これでおとなしくしてくれればいいが、そうでないのが彼女だ。
今すぐにでも箱詰めして本土に送り返したい。カナードは本気でそんなことを考えてしまった。