空の彼方の虹

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 キラがニコルとともに使っている部屋は、この艦でも比較的広い部類に入るらしい。そこで、キラはラウと向かい合っていた。
「さて、キラ」
 椅子に座ると同時に、ラウは口を開く。
「君はどうして、ヘリオポリスに?」
「……ラウ兄さんと同じ、だと思うよ」
 彼の問いかけに、キラはそう言い返す。
「ただ、僕の目的は、オーブ用のMSの方だったけど」
 サハクの双子、そして、カナード用に作られていた期待。それの最終調整を行うはずだった。
「ついでに、地球軍のOSにリミッターをかけるように、ってミナ様から」
 隠していても仕方がない。キラはそこまで告げた。
「……なるほど、ね」
 彼女らしい、とラウはうなずく。
「しかし、リミッターとは……」
「開発はかまわないが、地球軍に渡したくないからと言っていました。あれは、セイランが勝手に渡す約束をしたそうですし」
 邪魔はできないが、嫌がらせはしてやろう。それがサハクの双子とウズミの結論らしい。
「そうしないと、ヘリオポリスを破壊すると言われたそうですから」
 セイランが言っていたことだから、どこまで本気かはわからないが。しかし、十分やりかねない。そう考える程度には、キラも彼らの行動を危険だと思っている。
「なるほど、ね」
 確かに、それならばキラが引っ張り出されたとしてもおかしくはない。
「もっとも、今の様子なら、その必要はないと思いますけど……」
 資料としてもらってきたOSはひどいものだ。だから、きっと、ナチュラルでは歩かせるのが関の山だろう。
「せめて、あの人が戻ってきたときに動かせる機体を作りたい、とは思っているのですけどね」
 必要になるのではないか。キラは心の中だけでそう付け加える。
「君はあの男に優しいね」
 ため息とともにラウは言う。
「……そうでしょうか?」
 カナードやラウにも同じように接しているつもりだが、とキラは首をかしげた。
「私の勝手な思い込みだと思えばいいよ」
 ラウは苦笑とともにそう言い返す。
「だが、そう言うことならば気をつけなければいけないね」
 何を、と問いかけても彼は答えてくれることはないだろう。
「ともかく、君の目的はわかった。だが、それをかなえてもらうわけにはいかないね」
 ザフトとしては、と彼は言外に付け加える。
「当然だと思います」
 それに、とキラは続けた。
「約束の時間までにたどり着けない以上、不可能ですから」
 おそらく、別の技術者が向かっているのではないか。
「……あるいは」
 何かを思いついたというようにラウが口を開く。
「その事故自体、君を拉致するためだったのかもしれないね」
 優秀な技術者を確保して洗脳してしまえば、今後の戦いが自分達に有利になると考えたのだろう。
「君があちらについて仲間達と合流してしまえば、それは不可能になるからね。カナードの噂はあちらにも知られているだろうし」
 ラウは淡々と口にする。
「情報源は、セイランだろうね」
 連中がキラに関するデーターをあちらに流したのだろう。だから、地球軍が目をつけた。そう言うところではないか。
「君があちらに拉致されなくてよかった」
 本当に、とラウは微笑む。
 今なら、ねだってもかまわないだろうか。キラはふっとそんなことを考える。
「ラウさん」
 その気持ちのまま口を開く。
「何かな?」
 即座に彼は聞き返してくる。
「仮面、外してもらっては、だめですか?」
 再会してから一度も彼の瞳を見ていない。だから、ちょっと不安なのだ。
「ここには君と私しかいないからね。かまわないだろう」
 ただし、と彼は続ける。
「私の素顔は最重要機密だからね。内緒にしておいてくれるかな?」
 小さな笑いとともに彼は言葉を口にした。そのまま、手を持ち上げると仮面を外す。
「これでいいかね?」
 彼の青い瞳が昔と変わらない優しい光を浮かべている。それを確認して、キラは小さな笑みを浮かべた。

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最遊釈厄伝