空の彼方の虹

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「キラ君、ご飯にしましょう」
 この言葉にキラは顔を上げる。
「もうそんな時間?」
 そう言い返しながら時計へと視線を向けた。そうすれば、とっくに正午を回っている。
「ついさっき、朝ご飯を食べたような気がしていたのに」
 あまりおなかがすいてないのだが、でも、時計が狂っているとは思えない。
 つまり、自分に原因があると言うことだ。
「部屋の中に閉じこもっていたから、かな?」
 キラはそう言って首をかしげる。
「……それについては申し訳ないと思っています」
 即座にニコルがそう口にした。
「ただ、作戦開始が近いので、艦内が殺気立っているんですよ」
「わかっています。部外者である僕が知らない方がいいことがたくさんあることも理解しているつもりです」
 カナード達から聞いているから、とキラは続ける。
「ごめんなさい。暇でしょう?」
 それでも、ニコルは申し訳なさそうな表情を崩さない。
「パソコンを持ってきていただきましたから。時間だけはつぶせます」
 プログラミングさえしていれば、時間を忘れるのが自分だ。しかも、ここには途中で止めに来るカナードはいない。好きなだけこったプログラムを組み立てていられる。
「問題は、ゲームを作ってもつきあってくれる人がいないことですね」
 自分で作ったパズルゲームなどは、答えが全部わかっているからつまらない。かといて、格闘ゲームは一人ではつまらないのだ。
「作戦が終わったら、好きなだけつきあってあげますよ」
 それまでは我慢してください、とニコルはまた口にした。
「もっとも、作戦が終われば本国に戻れるはずですから、そこからキラ君は地球に戻ることになるかもしれませんね」
 あるいは、地球のザフトの支配区域からオーブ本土に戻ってもらってもいいのではないか。
 どちらかというと、その方が時間的ロスが少ないような気がする。
「まぁ、今は食事の方が優先ですけど」
 そう言って彼は笑った。
「そうですね」
 せっかく迎えに来てくれたのだ。一緒に行かないと申し訳ない。
「ひょっとしたら、隊長も同席されるかもしれないそうですし」
 ふっと思い出した、と言うように彼は付け加える。
「それを早く言ってください!」
 彼を待たせるのはまずいのではないか。何よりも、ラウがその気になればカナードに直接連絡が取れるのだ。ここでのあれこれがばれるとまずいと思う。
「大丈夫ですよ。こちらに来られればわかりますから」
 連絡が来ていないと言うことは、まだ着いていないのだろう。
 そう言われてもすぐにうなずくわけにはいかない。
 彼は、ときに自分達を驚かせようととんでもない行動をとってくれるのだ。
「……ラウさん、時々、とんでもないいたずらをしますよ?」
 とりあえず、とキラは口にする。
「そうなのですか?」
「そうなんです」
 ニコルの言葉にきっぱりと言い返す。
「食事だと呼ばれていったら、お皿の上に生きているカエルが乗っていた、と言うのはかわいい方です」
 あのときは別の意味で阿鼻叫喚の嵐だった。もっとも、その後でしっかりとラウが自分達の母に怒られていたが。
「あの隊長が……」
 信じられない、とニコルは呟く。
「ラウさん達は結構いたずら好きですよ」
 まじめに見えるのは、きっと隊長の役目に就いているからではないか。
「……その矛先が僕たちに向かないことを祈りましょう」
 ニコルはそう言ってため息をつく。
「作戦前はないと思いますけど」
 でも、予想を裏切ってくれるのが彼だ。そう考えれば、いつ何をやらかしてくれるかわからない。そう言うところが、彼の《兄》によく似ている。心の中でそう呟きながら、キラはニコルとともに移動を開始した。

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最遊釈厄伝