空の彼方の虹
12
ドアの外が騒がしい。
「さて……今度はどちらが暴れているのか」
自分の片割れか、それとも……とため息をつきながら、ロンド・ミナ・サハクはメールを確認する。その中の一通に目をとめると、彼女は即座に本文を表示させた。
「どうやら、少しは静かになりそうだな」
文面に目を通してこう呟く。
「ザフトの艦というのが少々不安だが、あれがそばにいるのであれば心配はあるまい」
彼もまた、自分達と同じようにあの子を大切にしているのだから。ミナはそう口にする。
「もっとも、早めに迎えに行ってやりたいが」
さて、どうしたものか。そう言って考え込む。
「ラウも作戦中のようだしな」
そうでなければ、遠慮などしない。無条件でキラを連れてこちらに来るように命じている。しかし、だ。
「あれには、今しばらく、ザフトでがんばってもらわなければいけないからな」
こちらに情報を流してもらう関係でも、と彼女は言う。
そのときだ。
ドアの向こうから爆発音が響いてくる。
「全く……加減をしらんの可、あいつらは」
だだをこねる子供でもあるまいし、とミナはあきれたように告げた。そのまま、彼女は立ち上がる。
「これ以上、施設を破壊されては他の者達が困ろう」
そそうをした馬鹿どもにお仕置きをするのは年長者として当然だろう――もっとも、そのうちの一人は自分の双子の片割れなのだが――と考えて歩き出す。
「キラがいてくれれば、本当に楽なのにな」
カナードはもちろんギナも彼の前では立派な姿を見せたいと思っているのか。普段の奇行がなりを潜めるのだ。
「まぁ、いい。この情報を伝えれば、少しはマシになるだろう」
それでだめならば、本気でたたき出すまでだ。
「仕事ならいくらでもあるからな」
見栄っ張りのあの二人のことだ。まじめにやってくるだろう。キラに報告をすると言えば、なおさらではないか。
「それがいいかもしれんな」
にやりと笑うと、彼女は部屋の外に踏み出した。
さて、と呟きながら、ムウはブリッジへ向かう。
「何か、いやな予感がするんだけどな」
とんでもない爆弾を押しつけられるような、と彼は続けた。
「と言っても、今も変わらないか」
この艦がどこに向かっているのか。そして、その目的はなんなのか。それを知っている身としては、だ。
「一応、あちらには情報を流しておいたが……間に合うかね」
間に合ってくれないといろいろと厄介なことになるような気がする。特に、あのこのことで、だ。
「向こうであったらものすごくやばいよな」
個人的には嬉しいが、あれこれと考えれば、休暇のとき以外、会わない方がいい。それも、オーブ本土かアメノミハシラでだ。
未だに、あの子のことを探している連中がいる以上、念には念を入れなければいけない。自分の不都合は棚に上げるべきだろう。
「俺は年長組だしな」
年のことは考えたくないが、と苦笑を浮かべる。
「あいつ以外の年少組は問題ありありだし」
同じように育ってきたはずなのに、どうしてなのだろうか。特に、あの二人は、だ。
「周囲の環境かな」
それとも、と思う。だが、それを確かめることはもう難しい。何よりも、キラが余計な事まで思い出してしまうのではないか。そう考えれば二の足を踏んでしまう。
「まぁ、会うのは当分先だろうがな」
何事もなく、すめば、だ。
「でも、何か起きそうだよな」
首の後ろがちりちりとしている。こういうときには必ず厄介事が押しかけてくるのだ。
「とりあえず、生き残ることを最優先にしないとな」
自分も含めて、と苦笑を浮かべる。
「さて、艦長の話を聞いてくるか」
ついでに周囲の状況を確認できればいいのだが、と思いながらブリッジへ続くエレベーターの中へ体を滑り込ませた。