空の彼方の虹
10
「さて……それでは、君が今、何をしているのか。教えてもらおうか」
久々に会ったのだから、とラウが告げたときだ。彼の目の前の端末が自己主張を始める。
「私だ」
何かね、と即座に彼は応答を返す。
『すみません、アスランを捕まえ損ねました。おそらく、そちらに向かうものと思われます』
すみません、とミゲルの声がそう告げる。
「おやおや。ようやく身内としての話ができるか、と思っていたのだが仕方がないね」
ため息とともにラウは言葉を吐き出す。
「まぁ、いい。機会はまだある。それよりも、君とアスランを会わせる方が問題だ」
言葉とともに彼は視線を移動させる。
「ニコル、アスランと会わないルートでガモフに戻りたまえ。彼は当分、私が足止めをしておく」
いくらアスランでも、自分を無視して追いかけることは不可能だろう。ラウはそう続けた。
「わかりました」
ニコルはそう言うと立ち上がる。
「キラ君、急ぎましょう」
そのまま、キラを促してきた。
「さすがに、ここの前で鉢合わせをしては逃げ出せませんから」
「はい」
うなずくとキラも立ち上がる。
「気をつけて行きなさい」
二人に向かって、ラウがこう言ってきた。
「はい。また、お話してください」
そんな彼に、キラは微笑み返す。そのまま床を蹴ってニコルのそばへと移動した。
「では、キラ君は確実にガモフに連れて行きます」
失礼します、と告げると二人はそのままラウの部屋を後にする。
「とりあえず、ブリッジに行きましょう。そこからアスランの動きを確認します」
あるいは、彼がラウの執務室に入ったのを確認してからでもいいかもしれない。
「でも、僕がブリッジに行っていいのですか?」
部外者なのに、とキラは聞き返す。
「大丈夫です。中に入らなくてもいいわけですから」
行きましょう、とニコルは手を出しだしてきた。その手に、キラは自分のそれを重ねる。
いつ、自分はカナードのそばに帰れるのかな。そう考えながら、移動を開始した。
「さて、どうするべきか」
二人の背中がドアの向こうに消えたところで、ラウは厳しい表情を作る。
「本当に、困ったものだね」
アスランには、と続けた。
「あの子の時間を奪っておきながら、それでも、あきらめないとは」
何を考えているのか。いや、何も考えていないのかもしれない。そんなことすら考えてしまう。
「あの子のそばが心地よいのはわかるがね」
しかし、キラの方もそう思っているとは限らない。むしろ、今のキラにとってアスランは害悪でしかないのではないか。
「そういえば、君があの子から奪ったのは時間だけではなかったね」
それを自覚していれば、決して、あんな風にキラを追い詰めることはないだろうに。
「あの子にはあの子の幸せがあるのだよ?」
それは決して、アスランとは重ならない。近づくことはあっても、だ。
「あの子を一番必要としているのは、私でも君でもない」
もちろん、自分達にとってキラは大切な存在だ。しかし、まだ依存しているわけではない。だからこそ、自分達はまだ、一歩引いて世界を見ていられるのだろう。
それは、あの日のカナードの様子を見ていたからだ。
彼からキラを取り上げたらどうなるか。それを一番、知っているのは自分かもしれない。
「あの二人の間に割り込めるとすれば、後一人だけだね」
しかし、それは君ではないよ。ラウはそう呟く。
『失礼します』
それを待っていたかのように端末からアスランの声が響いてくる。
「何かね?」
今の彼に何を言っても無駄だろう。それでも、自分にはキラを護る義務がある以上、何とか彼を排除しなければいけない。そう考えながらラウは言葉を返した。