空の彼方の虹

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  08  



「そうだ」
 しばらく進んだところで、ミゲルが思い出したというように口を開く。
「うちの隊長、ちょっと、変わった格好をしているから、覚悟しておいてくれ」
 できれば、笑わないでいてくれるとありがたい。彼はそう続けた。
「あぁ、そうでしたね」
 それに何かを思い出したのだろう。ニコルもうなずいてみせる。
「当たり前になっていたせいで、忘れていた……慣れって、怖いな」
 ラスティも苦笑とともに同意の言葉を口にした。
「まぁ、お前はザフトの軍人じゃないから、多少失敗しても見逃してもらえるだろうけどな」
 だから、そんなに緊張しなくていいぞ……と視線を向けてくる。
「はい」
 彼の一言で少しだけ気持ちが軽くなった。同時に、好奇心がわき上がってくる。
 変わった格好とはどのようなものなのだろうか。ジャンク屋や傭兵に多いようなタイプなのか、と心の中で呟く。
「と言うことで、ここな」
 やがて、ミゲルは艦の中央部に近い――あくまでもキラの認識で、だ――部屋の前で止まった。
「隊長、ミゲルです。お子様を連れて来ました」
 壁の端末を操作すると、彼はそう告げる。
『入りなさい』
 その瞬間、耳に届いた声に聞き覚えがあるような気がするのは錯覚か。
「……まさか……」
 可能性がないわけではない。しかし、そこまで都合がいい偶然があると思ってはいなかった。
「キラ君?」
 どうかしたのか、とニコルが問いかけてくる。
「知っている人の声に似ているような気がしたので……」
 気のせいかもしれないが、と素直に続けた。
「プラントに知り合いが?」
 ニコルが確認するように顔をのぞき込んでくる。
「はい。母さんはオーブに残ったけど、親戚が何人かプラントに移住しているので。その中の一人がザフトにいると、前にあったときに教えてくれました」
 だから、隊長さんに会ったら、その人に連絡が取れないかどうか。それを聞いてみようと思っていた。そう続ける。
「念のために、その方のお名前を教えてくれますか?」
「ラウ・ル・クルーゼさんです」
 即座に言い返す。次の瞬間、三人の表情がこわばった。
「……おい」
「同姓同名の他人、と言うわけではありませんよね?」
「そうだといいがな」
 ともかく、覚悟を決めて入るぞ……とミゲルが言う。そして、ドアを開けた。
「失礼します」
 三人に挟まれるようにして、キラも室内に足を踏み入れる。
 その瞬間、室内にいる白い軍服の人物が確認できる。その顔の半分を覆っている仮面を覗けば、自分が知っている人物によく似ていた。
「……ひょっとしなくても、君だね、キラ」
 そして、それを裏付けるかのように彼が声をかけてくる。
「ラウさん?」
 キラの呼びかけに、彼は小さく微笑んで見せた。
「偶然とは言え、私が君を保護できたのはよかった、と言うべきかな」
 言葉を口にしながら、彼は立ち上がる。
「その仮面……」
「軍務に着いているときは、この方が都合がいいからね」
 自分の素顔はトップシークレットだよ、と彼は付け加えた。それがどうしてなのか、キラは知っている。
「はい」
 小さくうなずけば、彼はいい子だというようにうなずいて見せた。
「あの、隊長……」
「私の親戚、だよ。父君がナチュラルなので、オーブに残ったね」
 この子達はまだ小さかったから、両親がいるのに引き離すのはかわいそうだ。そう判断したのだ。彼は続ける。
「もう一人の子とは違ってね」
 とりあえず、話を聞かないといけない。そう言って彼は座るように促す。
「君たちも同席するかね?」
 気にかかるだろう? と続けた。
「あ〜、俺は、デッキに行きます。ちょっとミスったので……」
 ミゲルは苦笑とともに言葉を返す。
「そうかね」
 仕方がない、とラウはあっさりと許可を出す。
「では、残ったものだけで話をしよう」
 それに、キラも異論はなかった。

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最遊釈厄伝