空の彼方の虹

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  06  



 ニコルとラスティとともに、キラは連絡艇へと乗り込んでいた。
「アスランはイザーク達が足止めをしてくれていますし……そもそも、ヴェサリウスには連絡艇を使わないと移動できませんから、追いかけてくる心配はありませんよ」
 ガモフでもしっかりと阻止してくれるはずだ。ニコルはそう言ってくる。
「はい」
 彼の言葉に、キラはそう言い返した。
「一応、ヴェサリウスでも根回しはしておくか」
 アスランが来ても、すぐには乗船させないように……とラスティは口にした。
「そうですね。そうしておけば、後は隊長が何とかしてくださいます」
 ニコルもすぐにうなずく。
「だから、安心してくださいね」
 そのまま、彼はキラへと視線を向けてきた。
「はい」
 いくらアスランでも上官の命令なら従うだろう。
 それに、とキラは心の中で付け加える。この隊の隊長が誰なのかは知らないが、そのクラスの人間ならプラント本国へ連絡が取れるのではないか。
 その人からあの人に連絡を取ってもらえれば、きっと、暴走を止めることができるだろう。
 問題は、彼と連絡が取れるかどうかではないか。それ以前に、自分の言葉を信じてもらえるかかもしれない。
「しかし、アスランの奴。子供をいじめてどうするんだ?」
 と言っても、自分ともそう離れていないが……とラスティは苦笑を浮かべた。
「僕と二歳違いのようですから……ラスティとは四歳違い、になるのでしょうか」
 子供と言うには年齢が近いような気がする、とニコルは言う。
「でも……オーブだと小等部とカレッジの違いがありますから、そう言われても仕方がないです」
 四歳差は大きいだろう、とキラは言う。
「兄さんにも、よく、子供扱いされていますし」
 四つ上の、とキラは付け加えた。
「というと、キラ君のお兄さんはラスティと同じ年、と言うわけですか」
 負けられませんね、とニコルは笑う。
「……別に、勝負する気はないぞ」
 そういう問題じゃないだろう? とラスティは言い返す。
「まぁ、アスランには少し考えて欲しいところだがな」
 あそこまでごねる姿を初めて見た。彼はそう続けた。
「そうですね。いつもは、あんな風に他人の迷惑を考えずに押しかけてくることはなかったように思います」
 自分が知らないところではどうだったのか。それはわからないが……とニコルはうなずく。
「……前に『戦争が終わったら探したい奴がいる』と言っていたな、そういえば、あいつ」
 キラにこだわっているのは、それと関係しているのだろうか。ラスティはそう言う。
 おそらくそうだろう、とキラは心の中で呟く。しかし、何故、そこまで自分にこだわるのかがわからない。彼の周りには、自分以外にも人がいたのに。
 それとも、自分を探さなければいけない理由があるのだろうか。
 しかし、だ。そのせいで自分達がどんな目に遭ったのか。アスランは知らないだろう。キラ自身も、できれば彼に走らせたくない、と考えている。
 だからこそ、と思う。
「放っておいてくれればいいのに」
 そうすれば、誰もこれ以上、傷つかずにすむのではないか。
「そうですね。本当に、あの人は」
 キラのつぶやきを別の意味で受け止めたのだろう。ニコルはこう言ってうなずく。
「……離れている間に頭を冷やしてくれるといいんだが」
 どうだろうな、とラスティもため息をつく。
「イザーク達の言葉で現実を見てくれればいいんだが」
 無理だろうな、と彼は一刀両断にする。
「……僕と、その人と……年齢が違うんですよね?」
 わからないけど、とキラは首をかしげて見せた。
「前に聞いた話だと、あいつと同じ年だと言っていたからな」
 それなのにどうしてなんだろうな、とラスティもうなずく。
「名前が同じだから、というだけではないのでしょうが」
 ニコルも訳がわからないという表情で言葉を口にする。
「しかし、それを聞いてやぶ蛇になっても困るし」
「だよな」
 そんな会話を交わす二人を見ながら、ここに《兄》がいなくてよかった。そう思うキラだった。

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最遊釈厄伝