空の彼方の虹

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  04  



 ニコルとラスティに挟まれるようにテーブルに腰を下ろす。その瞬間、周囲から視線が飛んできた。反射的にキラは首をすくめてしまう。
「大丈夫ですよ、キラ君。みんな、キラ君のような年齢の子供が珍しいだけです」
 成人前の子供なんて、滅多に目にすることもない人間も多いから、とニコルは笑ってみせる。
「と言っても、強面ばかりそろってるからな。なれてないと怖いか?」
 ラスティもそう言って笑った。
「そう言うわけじゃないです」
 ただ、とキラが言葉を返そうとしたときだ。不意に目の前に影ができる。
「……アスラン……」
 次の瞬間、ニコルが固い声で呼びかけた。
「話を聞かせてもらいたいだけだ」
 それを無視して、彼はさっさとキラの正面に腰を下ろす。その瞬間、食欲が失せてしまったのはどうしてだろうか。
「どうした? もういいのか?」
 キラの手が止まったことに気づいたのだろう。ラスティが即座に問いかけてくる。
「……もういいというか……」
 食べにくい、とキラは小さな声で言い返す。
「だそうですよ、アスラン。この場はあきらめてください」
 ニコルが厳しい声を投げつけた。
「ザフトは彼を保護したのであって、尋問しようとしているわけではないでしょう?」
 さらに彼はそう付け加える。
「そうだぞ、アスラン」
 ラスティもうなずく。
「今は、このお子様に食事をとらせるのが最優先事項。次は、隊長のところに連れて行く。お前との話はその後だな」
 優先順位は、と彼はさらに続けた。
「だが……時間はあるんだろう?」
「キラ君の食事の時間だけ、です。でも、あなたがここにいれば、それは終わりになりそうです」
 その結果、最悪、ザフトが保護した子供を虐待したと言われるかもしれない。その責任はとれるのか。ニコルはそう言い切った。
「そうそう。ザフトの基準でもまだ成人に達していないお子様をいじめるなって」
 ただでさえ、目つきの悪い者達の中で萎縮しているのに、とそれに追い打ちをかけてどうする。ラスティもそう言ってうなずく。
「と言うわけだから、さっさと行け。でないと、強制排除するぞ?」
 彼はさらにそう付け加えた。
「どうやって、だ?」
 できるのか、お前に……とアスランが言い返してくる。その彼の背後に赤い壁ができた。
「それは……」
 にやり、とラスティは笑う。
「こうやって、だな」
 同時に、背後からイザークとディアッカがアスランの腕をつかんだ。
「お前たち!」
 即座にアスランが文句を言う。
「同じ手段で確保されるのは、お前が不抜けているからだろうが」
 イザークがあきれたようにそう告げた。
「と言うわけで、これは連れて行くから、ちびちゃんは飯喰ってな」
 ディアッカが笑いながらそう言う。
「僕、そんなに小さいですか?」
 この子扱いはともかく、ちび扱いはちょっとと思いながらキラは首をかしげる。
「安心してください。ディアッカが大きいだけです」
「独活の大木、という言葉もあるしな」
 にやり、と笑いながらイザークが言う。
「ともかく、お前は安心して食事を続けろ」
 アスランを強引に立たせながら彼は言葉を重ねた。
「ただ、その後でこいつと話をしてやれ。そうでなければ、鬱陶しいからな」
 しかし、この言葉にはすぐにうなずけない。
「無理にとは言わない」
 ただ、考えておいてくれ……とイザークは言葉を重ねる。
 考えておくと言うことは『否』と言ってもいいのだろうか。
「もちろん、断る権利はお前にある」
 キラの内心を読んだかのように彼は続けた。
「……わかりました」
 時間をおけばアスランが落ち着いてくれるかもしれない――もちろん、その可能性が低いことはわかっている――そう考えて、キラは小さく首を縦に振って見せた。

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最遊釈厄伝