空の彼方の虹

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  03  



 予想はしていたが、アスランは自分が《キラ・ヤマト》ではないかと疑っているようだ。
 何かを確認しようとするかのように、キラをにらみつけている。その視線に気づいた瞬間、ニコルの背中に隠れてしまう。
「アスランですか?」
 困ったものですね、と彼は小さな声で呟く。
「僕……あの人の機嫌を損ねるようなこと、しましたか?」
 キラはそう問いかける。
 もちろん、そうではないと自分自身が知っているが。
「そんなことはないはずです」
 少なくとも、最初に顔を合わせただけだ……とニコルは言い切る。
「無視していいですからね」
 とりあえず、と彼は続けた。
「はい」
 そうさせてくれればいいが、と思いながらキラはうなずき返す。
「それよりも、おなかがすいたでしょう?」
 まずは食事にしましょう、と彼はアスランから離れるようにキラを案内して行く。
「別に、おなかはすいていませんが……」
「だめですよ、ちゃんと食べないと」
 大きくなれません、とニコルが言う。その瞬間、キラは思わず吹き出してしまった。
「キラ君?」
 どうかしたのか。そう言うようにニコルが彼の名を呼んだ。
「すみません。兄さん達にいつも言われているセリフなので……」
 まさか、ここでまで聞くとは思わなかった。キラはそう続ける。
「やはり、キラ君が小さいからでしょうね。僕も、未だに言われます」
 ニコルは苦笑とともに言葉を返してきた。
「でも、どう考えてもみんなが大きすぎるだけだと思うんですよね」
 そのせいで余計に小さく見えるのではないか。そう彼は主張する。
「……ここの人たちは、確かに見上げないと目線が合いません」
 ジャンク屋や兄の知人の傭兵グループには自分と同じくらいの身長の者達もいる。もっとも、それが女性だというのは引っかかるところではあるが。
「大丈夫ですよ。ちゃんと大きくなると、思います」
 ニコルのこの言葉にキラはうなずく。
「そう言うことですから、どうぞ」
 その瞬間、目の前に現れたそれにどう反応すれば良いのか。そう思わずにいられない。
「どうかしましたか?」
「……多いです……」
 量が、と素直に告げる。
「残してもいいぞ」
 そのときだ。聞き覚えのない声が割り込んでくる。
「そうしたら、俺が喰ってやる」
 誰だろう。そう思って視線を向けた。そうすれば、ニコルやアスラン達と同じ色の軍服を身にまとっている相手が確認できた。
「ラスティ、何を言っているんですか、あなたは」
 あきれたようにニコルがそう言う。
「小さいのが無理に食べると胃痛を起こすだろう? だから、親切心」
 ニコルなら放っておくが、とラスティは笑った。
「ついでに、隊長から伝言。飯喰ったらヴェサリウスまでその子を連れてこいってさ」
 話を聞きたいそうだ。その言葉にニコルは小さなため息をつく。
「仕方がないのでしょうが……できれば、キラ君がもう少し落ち着いてからの方がよかったかもしれません」
 アスランの言動も怖いですし、とニコルは続ける。
「何かしたのか、あれ」
「わからないから困っているんですよ。キラ君は完全に怖がっています」
 本当に困ったものだ、と言えばラスティは苦笑を浮かべた。
「じゃ、あれはおいていくしかないんだろうが……」
 さて、どうするかな……と呟く。
「ディアッカ達に頼むしかないでしょうね」
 彼を見張ってくれているように、ニコルは言う。
「それで思いとどまってくれればいいがな」
 だが、ラスティはこう言葉を返している。
「ああいう視線をしているときのあいつは厄介だからな」
 その言葉に、キラも同意だ。同時に、彼のことを理解しようとしてくれている人間がいるではないか。心の中でそう呟く。
 ならば、早々に自分のことをあきらめてくれれば良いのに。
 そう思わずにいられないキラだった。

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最遊釈厄伝