空の彼方の虹
02
そもそも、どうしてこうなったのだろうか。
ニコルに手を引かれるように移動をしながらキラは心の中でそう呟く。
彼と合流するためにアメノミハシラからヘリオポリスへ向かう定期便へと乗り込んでいた。
だが、その船が何者かに襲撃をされたらしい。
伝聞でしか言えないのは、キラがそのまま、救命ポッドに押し込まれたからだ。それは、彼の見かけの年齢に関係している。
今の彼は、十三歳程度にしか見えないはず。いや、実際、今のキラは生まれてからもうじき、十四年になるかならないか、だ。
それには、いろいろと理由がある。
しかし、それを他の誰かに知られるわけにはいかない。
下手な相手に知られたら、狙われるのは自分だけではないのだ。
あの日のように、大切な誰かを失うかもしれない。
だから、とキラは唇をかみしめる。
「そんなに緊張しないでください」
キラのそんな態度をどう受け止めたのか。ニコルが柔らかな微笑みを向けてくる。
「いくらザフトでも、民間人に危害を加えません」
それがナチュラルでも、と彼はその表情のまま付け加えた。
「……そう言えば、キラ君はいくつなんですか?」
少しでもキラの気分を和らげようとしているのか。彼はこんな問いかけをしてきた。
「もうじき、十四です」
自分が実際に過ごしてきた時間を合計すれば、とキラは心の中だけで呟く。
「そうですか」
だが、彼がそれに気づいているはずがない。
「なら、僕よりも年下なんですね」
自分よりも年下の人間が身近にいるのは初めてだ、とニコルは続けた。
「そうなのですか?」
「えぇ。プラントでは子供が生まれにくいですし……僕の場合、親族の中で最年少ですから」
結婚しているいとこはいるが、まだ、子供はいない。そう言って彼は笑った。
「……そうですか」
第二世代以降のコーディネイター同士の組み合わせでは子供ができにくいとは聞いていたが、本当だったのか。心の中でそう呟く。
「オーブだと、コーディネイターとナチュラルのカップルも多いので、気にしたことがありませんでした」
その組み合わせでは普通に子供が生まれているから、と続ける。
「オーブだからこそ可能なんですよ、それは」
あの国では、とりあえず二つの種族の間に垣根はない。だから、と彼は笑う。
「そういえば、キラ君はどうしてヘリオポリスに?」
これも尋問なのだろうか。ふっとキラはそんなことを考える。
「兄と合流するため、です」
仕事の関係で、と続けた。
「仕事ですか?」
「はい。兄の手伝いをしていますので……その関係で」
一応、カレッジまでは卒業しているし、ジャンク屋ギルドにも登録しているから……とキラは笑う。
「兄はジャンク屋ではないのですが、今回は一緒に仕事をしていますから」
調べられればすぐにわかることだから、このくらいはかまわないだろう。そう判断をして続けた。
「……ひょっとして、キラ君もコーディネイターですか?」
今の話から判断をして、とニコルが振り向く。
「はい。父さんがナチュラルだから……第一世代になるのかな?」
正確に言えば、母もナチュラルだ。しかし、そのあたりは適当に濁しておく。
「そうですか。オーブならあり得る話、ですね」
地球上でのコーディネイトは禁止されている。しかし、月面を含めた宇宙空間でのコーディネイトは禁止されていないのだ。ニコルはそう言ってうなずく。
「それならば、何も心配はいりませんよ。どこの人間であろうと、同胞をいじめる馬鹿は徹底的にたたきつぶされますから」
ひょっとして自分がたたきつぶすつもりなのだろうか。そんな疑問すらわき上がってくる。
でも、それならそれでかまわない。
「大丈夫。すぐにお兄さんに会わせて差し上げます」
任せておいてください、と言う彼にキラはうなずいて見せた。