仮面

BACK | NEXT | TOP

  04  


「……大尉!」
 その光景はストライクのコクピットからも見ることができた。
「僕のせい?」
 自分がイージスにとらえられてしまったせいで、彼の集中力をとぎれさせてしまったのだろうか。
 そのせいで、彼までザフトにとらえられてしまったのだとしたら……
 キラの心の中にそんな不安が広がり始める。そして、何とかかれにそんな自分の考えを否定して欲しい……とも思う。でなければ、自分の心は耐えきれずに押しつぶされてしまうのではないか。キラはそんな思いに駆られていた。
「……何とか、大尉と連絡を取らないと……」
 それと同時に、何とかイージスを振り切らなければいけない。
 どちらを優先させるべきか、キラは一瞬悩む。
 そして、通信回線を復帰させる方を選んだ。
「確か、予備の回線があったはず」
 何かの理由で機能を殺されているそれを復帰させる方が、イージスか逃れるよりも早いだろう。そして、その作業をしている間に--------アスランの性格からしてその可能性は低いだろうが--------イージスにも油断が生じるのではないかという期待もある。
『キラ!』
 そんなキラの耳に少しくぐもったアスランの声が届いた。
「……アスラン?」
 いったい何故彼の声が聞こえるのだろうか、と思いつつ、キラは彼の名を口にする。
『キラ、今すぐにザフトに投降するんだ!』
 そんなキラの言葉も相手に伝わったらしい。即座にこんなセリフが戻ってきた。だが、キラはそれに言葉を返すことができない。その代わりというように、
「……どうして……」
 声が聞こえるのだろうとキラは呟いてしまう。
『イージスとストライクの外装が接触しているからだよ。こうしていれば、通信回線を通さなくても会話ができる。だから、キラ……今のうちにザフトに投降すると言ってくれ』
 頼むから……と付け加える彼の言葉の裏に、あくまでもキラを守ろうとする気持ちが見え隠れしている。
「……だめだよ……できない」
 その言葉に頷くことができればどれだけ楽だろう。
 しかし、それは今まで一緒にいてくれた友人達を裏切ることにもなってしまう。
 第一、いくら自分たちの命を守るためだったとは言え、大勢のコーディネーター達の命を奪ってきたのは事実だ。
 そんな自分を守るためにアスランの立場を悪くさせたくない……とキラは思う。
『キラ、頼むから……もう、お前とは戦いたくないんだ……』
「僕だってそうだよ……でも……」
 今更そんなこと、とキラは呟く。
『アスラン! 何、ストライクのパイロットとなれ合っているんだ!』
 おそらく、イージスの通信回線越しに今の会話を聞かれていたのだろう。ザフトのパイロットらしき人間の声がキラの耳にも届く。
『うるさい! 邪魔をするな!』
『そいつは敵だろうが!』
 アスランのものと比べれば不明瞭なそれでも、彼が自分をどう思っているのかはわかる。
「……今のうちに、何とかできないかな……」
 二人の会話から無理矢理意識を切り離して、キラは通信回線を復帰させるための作業を開始した。
 何かをしていないと、余計なことを叫びそうな自分がいるのだ。
 その一言がアスランの立場を悪くしないとは言い切れない。
「結局、一番卑怯なのは僕か」
 仲間達を見捨てられない。でも、アスランにも嫌われたくない。
 そして、彼がこうして自分のことをまだ気にかけてくれているとわかってうれしいと思ってしまう。
 そんな自分はとても醜いとキラは思った。
 その想いが、キラの手を止めさせる。
 目の奧が熱くなった。
 視界が歪む。
 そう自覚したときにはもう、キラの頬に涙が流れ落ちていた。
『ともかく、キラは連れて帰る! 文句があるなら、帰還してから隊長の前で言え!』
 そんな彼に追い打ちをかけるようにアスランがこう叫ぶのが耳に届く。
「アスラン!」
 自分は同意をしていない、とキラは言外に付け加えた。ほとんど無意識のうちに彼の手はストライクをイージスの戒めから解き放とうと操縦する。
『キラが選べない……というなら、俺が決める。お前は俺と一緒に来るんだ!』
 だが、アスランはこの言葉と共にイージスを発進させた。
 ある意味予想はしていたが、この強引な行動にキラは一瞬すべての動きを止めてしまう。
「……やめっ!」
 ストライクのコクピット内に、キラの否定の言葉だけが虚しく響いた。
 そして、あきらめきれないと言うようになおもストライクを動かす。
『坊主!』
 そんな彼の耳に、フラガの声が明瞭に届いた。
「フラガ大尉?」
 自分は何もしていないのに何故通信回線が……とキラは目を見張る。
『こっちの回線は生きてたか……ともかく、今の状況ではお互いあきらめるしかなさそうだ。ストライクのバッテリーを温存しとけ』
 その言葉にゼロを探せば、自分と同じように連行されていくゼロがモニターに映っているのがわかった。
 と言うことは、何か彼に考えがあるのだろうか。
「……わかりました……」
 不本意だが、フラガにこう言われてはしかたがない。キラの返事にはそんな考えが見え隠れしている。そして、その事実がイージスの中にいるアスランの中に複雑な思いを抱かせたとまではキラにはわからなかった。
BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝