フラガを含む大人達は内密に話し合うことがあるのだろう。そして、その席には自分たちは必要がない、と判断されたのか。予想よりも早くパーティは切り上げられた。
 他の者たちはそれぞれ家路についたが、キラとカガリ――それに、何故かラクスはそのままザラ邸に泊まることになった。
 もちろん、それぞれに客間が割り当てられたのだが、キラはそれを断って、こうしてアスランの部屋に転がり込んでいる。
 それは、任務を離れた場所で二人きりになりたかったからだ。そして、アスランもそれを否定せずに受け止めてくれた。
 二人並んで、長い廊下を進んでいく。
 人目を気にしてか、二人とも微妙な距離を保ったままだ。
 だが、それもアスランの私室に辿り着くまでのこと。
「ご苦労様」
 二人だけになった瞬間、キラが微笑む。
 そうすれば、アスランがキラの体をそのまま壁に押しつけた。
「キラ達の方が大変だったと思うけど?」
 フラガ振り回されて……と囁きながら、アスランがそうっとキラの上に覆い被さってくる。そのまま、彼の唇がキラの額に降ってきた。
「僕はまだそうでもないよ。ムウ兄さん達の方が、これから大変だろうしね」
 今回の一件に対する後始末や、プラントに対する釈明。
 何よりも、現在オーブの中枢にいると思われる地球連合寄り――あるいはブルーコスモスよりと言うべきなのだろうか――の人物の洗いだしや排除。
 その他諸々の事柄が彼らの肩に掛かってくるはずなのだ。
 だが、それも彼らなら大丈夫だろうとも思う。
 自分を含めた者たちに味方をしてくれる者も多いのだ。彼らはもう動いているはず。フラガ達がオーブに戻るまでには、十分な裏付けと共に人物の特定が出来ているだろう。
 後は、彼らを糾弾し、オーブの中枢から遠ざけること。そして、ヘリオポリスの人々に対するフォローを行うことだろうか。
 そんなことを考えていたせいだろう。
 アスランがいつの間にか自分を抱き込んでいた、と言う事実にキラが気づかなかったのは。
「申し訳ないけどさ。俺には隊長やムウ兄さんやカガリよりも、キラの方が大切だから」
 だから、今はキラにだけそう言いたいのだ……とアスランは囁いてくる。
「本当にアスランは」
 キラは思わず苦笑を浮かべてしまう。
「どうして、そう言うことを言うのかな?」
 嬉しくないわけではない。でも、みんなのこともちゃんと考えて欲しいとキラは思う。でなければ、アスランのためにならないのだ。
 だが、彼は違うらしい。
「いいだろう? キラが、一番大切なんだから」
 昔も今も、と彼はキラの頬に唇を落としながらさらに囁きを口にした。
「だから、今だけはキラも俺のことだけを考えて?」
 明日は勤務もなにもないのだから……と付け加えるアスランが何を望んでいるのか、キラにも想像が出来た。
 ミゲルやラスティ、それにどこからか話を聞きつけてきたフラガに、散々言われてきたことでもある。
 それ以上に、キラも望んでいたと言っていいだろう。
 自分だって、彼が大切だと言うことは真実なのだから。その気持ちはアスランに劣らないと思っている。
 そして、彼の言うとおり、今は任務のことを考えなくてもいいだろう。
「うん、アスラン」
 キラは言葉を返すと同時に、アスランの首筋に自分の腕を絡める。
「大好きだよ、アスラン」
 そして、彼の頬にキスを返しながらキラはこう言い返す。
「……キラ……」
 キラの仕草に、アスランが苦笑を浮かべる。
「俺の理性を試して楽しい?」
 そして、こんなセリフを口にしてくれた。
「試してなんかいないよ?」
 こう口にするものの、その後のセリフをキラは口にすることが出来ない。伝えなければ、とは思うのだが、やはりまだ羞恥が残っているのだ。
 それでも、このままではアスランに誤解されてしまうだろう。
「僕だって……いやじゃないし……明日は、動けなくなっても、休暇中だし……」
 だから、頬に血が上るのを感じながらもこう口にする。
「でも、カガリには怒られるかな?」
 フラガにもきっとからかわれるだろう……とキラは囁くような声で告げた。
 そのキラの言葉の意味がわかったのだろう。
「カガリの怒りも、ムウ兄さんのからかいも、全部俺が引き受けるよ」
 だから、キラは何も心配しなくていい、とアスランは満面の笑みと共に言葉を返してきた。
「わからないことは、全部俺が教えてあげるから」
 いいよね、とアスランはキラの唇に自分のそれを重ねてくる。キラはそうっとまぶたを閉じるとそれを受け止めた。
 最初は重ねるだけだったキスも、次第に深いものになっていく。
 息苦しさにキラが唇を開いた瞬間、アスランの舌が滑り込んできた。そのまま、舌が絡められる。
「んっ……」
 キラもつたない動きでそれに応えようと必死になっていた。
 意識が完全にキスに向いていたせいで、アスランの指がキラの服をはだけようとしていた事実に気がつかない。
 気がついたときには、彼の指が服の隙間からキラの肌を刺激し始めていた。
「……アスラン……」
 さすがに、ここでこのまま続けるのは……とキラは言外に滲ませながら、彼の名を呼んだ。それはしっかりと彼にも伝わったのだろう。
「ゴメン、キラ……ちょっとがっついているな、俺」
 初めての行為がこれではなんだよな、と言う言葉と共に、アスランの腕がキラを抱き上げる。
「アスラン!」
 いくら何でも自分は男なのに、どうしてこんなに軽々と抱き上げられるのだろうか、と思いながらもキラは慌てた。これが、まだヴェサリウス内であれば気にならないのに、と。
「キラは軽いから心配しなくてもいい」
 もう少し太ってもいいよね……と笑いながら、アスランは足早にベッドに移動していく。
 そして、そうっとキラの体をそうっとシーツの上に下ろしてくれた。だが、キラがシーツの感触を感じるよりも早くアスランの唇がキラの肌に降ってくる。
「あっ……」
 そのたびに、甘いうずきがキラの体を駆けめぐった。反射的に、キラはシーツを握りしめる。
「キラ……掴む場所が違うよ」
 言葉と共にアスランの手が、キラの指をそうっと開かせた。そして、そのまま自分のせへと導いていく。
「アスラン……」
 うっすらと瞳を開いて見上げるキラの唇に、アスランはまたキスを落としてきた。


何とかここまでやってきました。というわけで、今回のおまけはいつもよりも長いです。終わりも……見えていると言っていいのかな(^_^;(^_^;