「つまらなさそうネ」
　頭の上からアイシャの声が振ってくる。それに、シンは視線を向けた。
「そんなことは……」
　ありません、とシンは言い返そうとする。
「ここがそう言っているわヨ？」
　しかし、アイシャの方が一枚も二枚も上だ。それは分かり切っていることではある。だからといって、図星を刺されてうれしいわけはない。
「……アイシャさん……」
　かといって、下手に反論をしても、彼女にはすぐに論破されてしまうだろう。
　一体どうすればいいのだろう、とシンは考え込む。
「まぁ、最愛のキラちゃんと離れなければいけないのはかわいそうだとは思うけど」
　そんな彼の上に、さらなる言葉が投げつけられた。
　確かに一番つらいのはそれかもしれない。
　あの男は彼と一緒に行けるのに……と思えばなおさらだ。立場上仕方がないとはいえ、悔しいものは悔しいし……と。
「でも、離れているからこそ、してあげられることもあるんじゃないのかしら？」
　しかし、そんなシンに向かってアイシャは諭すようにこう告げてきた。
「離れているからこそ、できること？」
　そんなことがあるのか、とシンは思う。第一、そんなものはすぐに思い浮かばない、とも。
「たくさんあるわ……たとえば、オーブにいるブルーコスモスの連中の洗い出し、とか、ネ」
　自分たちとのパイプ役、と言うのも重要な役目だろう、とアイシャは笑う。
「キラちゃんを直接助けることも重要だけど、側面からのバックアップも大切だわ。そうでしょう？」
　彼女の言葉一つ一つはうなずけるものだ。しかし、それでも……と思うことも事実。そんな自分を、どうやって納得させればいいのか、とシンは思う。
「あとは、オーブのＭＳ隊の底上げとかも重要でショ？　キラちゃんが安心して戦えるように、と言うことも」
　地球軍のことだ。キラが手に入らないと知れば、オーブに直接、手を出してくるかもしれない。そんなときに、キラが落ち着いていられるかというと答えは決まっているだろう。 「それはわかります。でも、その役目は俺じゃなくても……」
　務まるのではないか。そう思うのだ。
　たとえば、ミナやムウであれば、もっと適任だろう、とも。
「イイエ。貴方だからこそ、意義があるのヨ」
　しかし、アイシャはきっぱりとこう言い切る。
「貴方は、オーブの首長家の血筋じゃないでしょ。だからこそ、貴方でなければダメなのよ」
　一般のコーディネイターだからこそ、キラを支えになるのだ、と彼女はシンの顔をのぞき込んできた。
「それも、貴方だからこそ、いいの」
　わかる、と言われてもシンはうなずくことができない。
　だが、それでも《自分》でなければならないのであれば……という思いもシンの中にはあった。
「……俺に……何ができるでしょうか……」
　こう呟く彼に、アイシャは優しい微笑みを浮かべる。
「それについて、話を聞いてくれる気はあるの？」
　彼女の問いかけに、シンはしっかりとうなずいて見せた。

「……で？」
　どうしてこういうことになっているのかな……とキラは口元に笑みを浮かべながら目の前の相手に問いかける。
「だって……なぁ」
　その笑みに視線をさまよわせていたラスティが助けを求めるかのようにミゲルへと視線を向けた。
　それにつられるようにキラも彼へと視線を移す。
　俺のせいではない、と言うのだろうか。彼は大きく首を左右に振っていた。それでも、彼の腕の中にはアスランが戒められているところを見れば、とても信じられるものではないだろう。
「……それで？」
　信じられると思うか、と視線で問いかければ、彼は思わず腰をひいている。それでもアスランを解放しないあたり『さすがだ』と言うべきなのだろうか。
「……アスランには、一応、忠告したぞ……」
　それでも対処を取らなかったアスランが悪い、と彼が告げると同時に、
「アスランに対する嫌がらせもかねているんだよね、要するに」
　開き直ったのだろうか。ラスティが胸を張ってこう言ってくる。
　先ほど、彼が言いよどんでいたのはこのことだったのか、とキラはようやく理解をした。
「それにはさ。キラにも協力してもらうのが一番なんだよな」
　大丈夫、最後にはアスランも参加させるから、とにこやかに告げられてもうれしくはない。むしろ厄介だ、と思えるのは事実だ。
「ラスティ……冗談はそこまでにしておこうね」
　第一、自分は人前でそう言うことをする趣味はない、とキラは心の中で付け加える。
「え〜〜っ？　俺とキラの仲じゃない」
　てへっと笑いながらラスティがキラの服をはぎ取ろうと動き始めた。
「ラスティ！　お前！」
　それに抵抗をするキラの耳に、アスランの悲鳴が届く。
「うるさ〜い！　お前には文句を言う権利はないよ！」
　さっきまで、視力の暴力を繰り広げていただろうとラスティは言い返す。それ以前に、今にも飛び出そうとしていたアスランをフォローする羽目になった人間の身にもなれ！　と彼は付け加えた。
「それとこれとは別問題だろうが！」
「……ラスティ……アスランに嫌がらせをしたいなら止めないけど……それに僕を巻き込まないでよね」
　でないと、本気で怒るよ……とキラは彼に告げる。
「怒られる前に、気持ちよくなってもらうもんね〜〜」
　俺が上手だっていうのは、知っているだろう？　という言葉に、キラは一瞬虚をつかれてしまった。
　だが、すぐに我に返る。
「そう言う問題じゃないだろう！」
　自分はアスラン以外とするつもりはないのだ、とキラは思う。あの時はともかく、ここにはちゃんと彼がいるのだから。
「大丈夫、ミゲルも見学だから」
　心配いらないと言われても、認められるか、とキラは口にしようとした。しかし、それよりも早く、ラスティの手が直接そこに触れてくる。
「ひぁっ！」
　これに逆らえる男がいるだろうか。
「ほら……ここしばらくできなかったから、たまってんじゃない？」
　くすくすと笑いを漏らしながら、ラスティはさらに刺激を加えてくる。
「ミゲル！　あとで覚えておいてよね！」
　意味もなく、こう叫ぶのが精一杯だった。






まずいことになっていますね（苦笑）というわけで、次回は隠しです。tab連打でいけると思いますので、がんばってくださいませ（苦笑）