任務が終わると、ラスティの所に顔を出す。それがミゲルの日課になりつつあった。
「あいつら、大丈夫なのかねぇ」
 低く笑いながら、ミゲルはこう口にする。
「どうかしたわけ?」
 昨日よりもずっと顔色が良くなっているラスティがこう問いかけてきた。
「アスランとキラ――だっけ?――の話だろう?」
 ぜひとも聞きたい、とラスティが好奇心に顔を輝かせている。自分だって、アスランの愚痴に付き合ったのだから、その後の状況を聞く権利がある、と。
「……そういや、アスランの奴はお前にも相談していたっけ」
 というか、それで自分は巻き込まれたんだったな……とミゲルはため息をつく。
「そう言うこと。何か進展があったの?」
 当人に会う前に確認をしておきたい、と愁傷な口調でラスティは問いかけてくる。だが、それは見かけだけ。彼の脳裏には間違いなくアスランをからかうためのあれこれが渦巻いているはずだ。
「……教えるのはいいが……キラにはちょっかいを出すなよ?」
 アスランならいくら遊んでもいいが……と言う言葉に、ミゲルにとっての二人の立場……というのが見えるような気がしてならない。
「キラね……」
 それを察したのだろうか。どこかむっとしたような口調でラスティが言い返してくる。
「お前さ……自分のMSを起動した瞬間、隊長の怒鳴り声、聞きたいか?」
 クルーゼ隊のMSに関して言えば、OSの整備をキラが引き受けることが多い。だから、そういう報復を受ける可能性もあるのだ、とミゲルは苦笑混じりに付け加える。
「それに、アイツ、今、死ぬほど忙しいんだって。お前が復帰次第、キラが以前使っていたジンを回してもらえるように手配もしてくれているし……」
 第一、命の恩人だろう……と付け加えれば、ラスティもようやく納得したらしい。
「つまりは、余計な手間をかけさせたくないってことか。相手が忙しいって言うなら納得」
 余裕がない相手で遊ぶのは、後のフォローが大変だ。しかも、自分がフォローできないような相手であれば、そのしわ寄せがどうなるかわからない……とラスティは頷く。
「それに、命の恩人は大切にしないとな」
 自分がこうしてミゲルの顔を見ていられるのは彼のおかげだし……と告げる言葉はいたってまじめだ。
「そうそう。キラは義理堅いからな。仲良くなっておくと、優先的にあれこれしてくれるぞ」
 OSのカスタムでは山ほど世話になったし……とミゲルは笑う。
「キラの方もお前を気にしていたからな。いじめないって言うなら会わせてやるよ」
 見てくれも性格も可愛いから、きっと気に入るに決まっている……というミゲルに、ラスティは期待に満ちたまなざしを向けてくる。
「アスラン付き、でな」
 彼の前でのアスランの反応をぜひみたい、としっかりとリクエストしてくるラスティに、ミゲルはしっかりと頷いて見せた。

「言うは易く行うは難し……だよなぁ……」
 シャワールームから響いてくる水音を耳にしながら、アスランは小さくため息をつく。
「そりゃ、俺だってしたくないわけじゃないが……」
 あんなに期待をされても困る、と言うのがアスランの本音だ。
 もちろん、するとなれば精一杯キラを気持ちよくしてやるつもりだし、自分だって楽しみたいと思っている。だが、それを本人が喜ぶかと言うのとは別問題なのではないだろうか。
「こうなると、隊長やあの人を恨みたくもなるよ」
 せめてキラに、もう少し年齢相応の《性知識》を与えておいてくれればよかったのに……と本気で思う。
 いや、彼らでなくても言い。ミゲル達だってそれはかまわなかったはずだ。
 しかし、キラのあの様子を見ていれば、それができなかったことも理解できないわけではないが……
「ともかく、次はないと言われないようにがんばらないとな」
 アスランが決死の思いでこう呟いたときだ。
「何をがんばるの?」
 言葉と共にキラの顔がアスランのそれを覗き込んでくる。
「キラ!」
 いつの間に、と言う言葉をアスランは辛うじて飲み込んだ。
「髪の毛はちゃんと乾かせって、いつも言っているだろうが!」
 そして、その代わりというようにキラを怒鳴りつける。
「別にいいじゃないか。ここにはちゃんと重力があるんだし……」
 それに面倒なんだもん……と付け加えるところは昔と変わっていない。しかし、だからといって見過ごすことは出来ないだろう。
「それとこれとは違うだろう? 熱を出して寝込むようなことになればどうするんだ?」
 今のキラにそれは認められないじゃないか……とアスランは言いながら、キラの首に掛かっていたタオルを取り上げる。そして、そのまま彼の柔らかな髪を拭いてやった。
「そんなにやわじゃないよ、僕は」
 確かに、体重はちょっと減っちゃったかもしれないけど……と言う言葉に、彼も一応自覚していたのか、とアスランは少しだけ安心する。でなければ、際限なく無理をしそうなのだ、キラは。
「でも、一緒に寝る俺が冷たいだろう?」
 キラの髪の毛が湿っていれば……と付け加えれば、
「そうか」
 ようやく納得した……と言うようにキラは頷いてみせる。
「でも、自分でやるよりアスランにやって貰った方が上手くできるんだもん」
 しかし、けろっとした口調でこう言い返されれば、アスランにしては返すべき言葉もすぐには見つけられない。
「本当にお前は……」
 こう言うところは甘え上手だといえるのだろうか。ともかく、ここで甘やかしてはいけないのではないか、とも思ってしまう。
「僕がどうしたの?」
 きょとんとした表情でキラはアスランの瞳を見つめてくる。むっとしたように軽く突き出された唇が、キスをねだっているように思えるのはアスランの気のせいだろうか。
「襲うぞ、こら」
 ため息と共に、アスランはキラの肩に手を滑らせる。そして、そのままベッドに沈めてしまった。
「って、それが最初の目的じゃなかったっけ?」
 くすりっと笑いながら、キラが聞き返してくる。
「……まったく……」
 余計なことは一番よく覚えているんだよな、キラは……と囁きながら、アスランはそっと唇を重ねていく。同時に、キラが身にまとっていたバスローブの下へとゆっくりと手を滑り込ませていった。
「んっ……」
 反射的にキラが息を飲む。
 その甘さに、最後まで自制が出来るかどうか不安なアスランだった。



と言うわけで、あのあと二組がそれぞれ交わした会話です。久々に、この後、おまけがあります(^_^;
まぁ、読み飛ばしてもかまわないシーンですけどね(苦笑)