「キラさんって……あんなに艶めいていましたっけ?」
 毎日顔を合わせていれば気づかないような些細な変化かもしれない。だが、数日ぶりで顔を合わせることになったガモフ組にはそれは大きな違いとして受け止められる。
「……ようやく本調子になっただけじゃないのか?」
 信じられないことに、この手のことに一番鈍いのはイザークだ。それは、自分のせいなのだろうか……とディアッカは思わずにはいられない。もっとも、そんなイザークを見ているのも楽しい……と思ってしまうこともまた事実なのだが。
「アスランの態度を見ていれば、一目瞭然だ……と思うんだがな」
 だから、笑いを滲ませながらこう口にしてみる。
「アスラン? 奴がどうかしたのか?」
 そうすれば、予想通りの言葉がイザークから返ってきた。
「……そう言うことですか……」
 一方、この二つ年下の同僚は、ディアッカがいいたいことを的確に理解したらしい。納得をした、と言うように頷いている。
「あれ、キラさんのことだったんですねぇ」
 そして何かを思い出したかのようにこう呟いた。
「何? お前、何か知ってんのか?」
 こうなれば、好奇心がうずかないわけはない。即座に問いかけの言葉を口にする。
「アカデミー時代に、アスランから聞いたことがあります。戦争が終わったらすぐにでも探しに行きたい大切な方がいる、と」
 その人はアスランにとって《唯一》の存在だ、と。
「それがキラさんだったのではないか、と思っただけです」
 なら、アスランの気持ちもわからなくはない……とニコルは微笑む。
「なるほどな。筋金入りだったってことか」
 それにキラがほだされたのであれば、まぁ、結果は見えているか……とディアッカは笑った。そして、キラのあの様子も納得できるだろう。
「……だから、何がどうなっているんだ!」
 ディアッカ達の会話を聞いても、イザークは理解できなかったらしい。とうとうこう怒鳴り始めた。
「本当にわからないのですか?」
 これにはさすがのにこるも驚いたらしい。目を丸くして彼にこう問いかけた。
「わかっていたら聞くか!」
 そんな風に自信満々にいうべきことではないのではないか。長年のつき合いがあるディアッカですら、このイザークの態度には呆れてしまう。
 しかもだ。
「何かしたの?」
 どうやら、キラにもしっかりとイザークの声が届いてしまったらしい。三人の方に移動してきながら、声をかけてきた。
「お前とアスランの関係について、こいつがわからないってさ」
 自分たちは想像が付いているんだが、嘘を教えるわけにはいかない……とディアッカがいった瞬間である。彼を制止するようにニコルがさりげな蹴飛ばしてきた。
「僕とアスランの関係? とりあえずは幼なじみ……だよ」
 と言っても、聞きたいのはそれじゃなさそうだけど……とキラは微苦笑を浮かべる。
「わかってんなら、白状しろよ」
 状況によっては応援してやるから……とディアッカはこう言い返した。
「応援されてもなぁ……僕たちの関係だし……任務には支障が出ないようにするし」
 だから内緒……とキラは笑う。
「……隊長にチクるぞ」
 だから、白状しろ……と言いながら、ディアッカはだんだん本来の目的よりもキラとの会話の方が楽しいかもしれない……と思い始めた。
「別にいいよ。昔から公認だし、アスランとのことは」
 今も反対されていないから……とキラはさらりと言い返してくる。
「保護者公認か。凄いな」
 それには脱帽だ……とディアッカは口にした。
「だから、何なんだ!」
 はっきりと説明をしろ! とイザークがまた口を挟んでくる。それに、ディアッカは微かに目を眇め、キラは驚いたように目を丸くしていた。
「……本当にわかっていないわけ?」
 そして、その表情のままディアッカに確認を求めてくる。どうやら、今までの会話で十分理解できていたのではないか、と彼は思っていたらしい。そして、普通であれば察することが出来るはずだ、と。
「こいつ、その手のことに疎いから」
 すまん、と自分のことでもないのにディアッカは謝ってしまう。
「まぁ、いいけどね……アスランも似たようなものだったし」
 あるいは、自分の感情を認めたくなかっただけかもしれない……とキラは口にする。つまり、彼の方はアスランが自覚をする前から彼が自分に向けている感情の意味に気づいていたのかもしれない。
「それもまた、なんですね」
 ニコルが素直な感想を口にすれば、
「気づいたのは僕じゃなくて、ラウ兄さん達だったんだけどね。それこそおもしろがってアスランをからかってたし」
 とキラが実情を教えてくれる。
 それに、ディアッカは思わず吹き出してしまった。
「隊長が……」
 一体どのようなことを口にしてアスランをからかったのだろうか。ぜひとも詳細に聞き出したいとディアッカは考えてしまう。
「……キラさんが来るまで、隊長の正体に気づかないアスランも……」
 ニコルはニコルで、仲がいいアスランの、意外なぼけっぷりに驚いているようだ。それに関しては、ディアッカも同意だから、フォローしてやる気にもなれない。
「まぁ……ここにいるときの隊長とアスランが知っている《ラウ兄さん》を結びつけるのはかなり難しいと思うけどね」
 雰囲気が全然違うから……とキラは笑った。
「それに、絶対にアスランにばれないようにしていたに決まっているんだ、あの人は」
 と言うところで、そろそろ仕事の話に戻っていいかな? とキラは小首をかしげてみせる。
「俺はかまわないが……こいつが納得しないぞ、きっと」
 ディアッカは指でイザークを示しながらこういった。
「そうだ! 一体、お前らがどうなったのか、はっきりと言え!」
 イザークがこう言ってキラの襟首を掴もうとする。だが、それよりも早く誰かの手がイザークのそれをたたき落とした。
「キラに余計な手間をかけさせるんじゃない!」
「アスラン?」
 一体、どこからわいて出たんだ、とか、それよりも、いつからいたんだ……と誰もが彼の唐突な登場に目を丸くする。
「アスラン、そっちは終わったの?」
 ただ一人、キラだけは平然と微笑んでいたが。
「あぁ。それよりも、早く終わらせてしまいなって。でないと、本当にドクターストップがかかるよ?」
 アスランはアスランで、キラの体を抱きしめるようにしてこう囁いている。はっきり言って、目の毒だ……と思うのはディアッカだけだろうか。
「でも、急いで終わらせてしまわないと……いつ、戦闘があるかわからないんだし」
 しかも、キラはそんなアスランを押しのけようとはしない。むしろ、自分から体をすり寄っているような気がするのだ。これは、完全に見せつけているな……とディアッカは判断をする。
「それもわかっているが……だから、任務以外のことではイザークは無視しろってミゲルにもいわれただろう?」
 あの鈍さは俺よりひどいんだから……とアスランはとんでもないセリフを口にした。
「……貴様ら……人を何だと思っているんだ!」
 当然のようにイザークが爆発をする。しかし、ディアッカも含めて、他の四人はミゲルの忠告に従うことにしたのだった。



イザークいじめ……ですね、今回は(^_^;