狭間

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  17  


 ストライクの動きにだけ注意を向けていたせいか、フラガは近づいてくるイージスに気がつくのが遅れてしまった。
「まずい!」
 だが、イージスはある意味、急襲を目的として開発された機体だ。反応が遅れればいくらフラガでも逃げることはできなかった。それでも何とかしようとスロットルを動かす。だが、しっかりと伸ばされたアームがゼロを捕らえてしまった。
「くそっ!」
 ガンパレルを操作して、何とかイージスから逃れようとする。だが、それよりも先に外部から侵入してきた『誰か』によってOSが強制的に遮断されてしまった。
「キラ!」
 それが誰の手によるものなのか、フラガには想像できてしまった。
『ごめん……でないと、兄さん、おとなしく捕らわれてくれないでしょう?』
 これ以上大切な人を誰も失いたくないのだ……と付け加えられた言葉に、フラガ自身怒りを忘れてしまう。
 だからといって、この状況を認められるものではない。
「……だからといって、これはないんじゃないのか?」
 約束では、一騎打ちの結果だったはず……とフラガは言外に付け加える。
『あのまま戦闘を続けていたら、どちらも損傷が大きくなりすぎる……僕は、連邦の人にも死んで欲しくない。甘いかもしれないけど……』
 それに対してキラが口にしたのはこんなセリフだ。
「ったく……お前は……」
 はっきり言って、あきれるしかないというのはこういう事なのかとフラガは思う。MSのパイロットになってこんなセリフを言える人間がいるとは思わなかったのだ。
 基本的に、キラは自分が知っている頃の彼と変わっていないのだろう。
 おそらくMSのパイロットになったのも、クルーゼに言いくるめられてのことか。それも、自分のことをだしにだ。
「……やっぱ、アイツに預けたのは失敗だったか……」
 だが、あの時にはそれ以外選択肢がなかったのだ。
 しかし……とフラガは呟く。
「いっぺん、アイツとはしっかりと話し合わないといけないな」
 すべての元凶がクルーゼだと開き直る。キラがザフトに入隊するはめになったのも、そもそも自分が連邦軍に入ったのも……すべてあの男が手を回したようなものだ。
 自分はまだいい。それについて文句を言うつもりもなかったし、性格的に合っていたのだ。
 だが、キラの場合はどうか。
 先ほどのセリフからしても他人を傷つけられるとは思えない。だが、ストライクの動きだけを見ていれば、間違いなくトップクラスのパイロットだ。
「……あいつが変わってしまうのはいやだな……」
 キラの、あの透き通った瞳が血に汚れて濁ってしまうのは見たくない。
 かといって、あれだけの才能を見せつけてしまってはもうザフトを抜けさせることはできないだろう。
「それ以前に、自分がどうなるのかもわからないのにな」
 こうなった以上、自分は開き直るしかない。イージスから逃れることは不可能だと言うことはわかっていた。ならば、後はキラの立場を考えてやるしかないのか……と心の中で付け加える。
「その前に、アイツにあったら一発殴ってやらないとな」
 そのくらいの憂さ晴らしはさせて貰おう……とフラガは呟くと、目を閉じた。

『キラ。もう少しでヴェサリウスだ』
 アスランからの通信を耳にしなくても、ストライクのモニターにもそれは映っている。
「そうだね」
 口ではこう答えながらも、キラは別のことを考えていた。
 先ほどのフラガとの会話は聞かれていただろう。
 それに関して、アスランは何も聞いてこない。
 だが、このまま何も告げずにいていいのだろうか。
 せめて彼にだけは告げておいた方がいいのかもしれない。
 これが戦場に向かう時ならばそんなのんきな会話をしていられないことはキラにだってわかっていた。だが、ここまで来ればもう連邦からの攻撃はないだろう。そして、ヴェサリウスに戻ってしまえば、そんな余裕もなくなりそうだ。
「アスラン……」
 意を決したように、キラは彼に呼びかける。
『どうかしたのか?』
「……今までの会話、聞いていたんでしょう?」
 先ほどよりも声が小さくなってしまったのは、まだ自分が迷っているからなのだろうか、とキラは思う。
『連邦のMAのパイロットとの会話のことかな?』
 そんなキラの耳に、アスランの普段と変わらない声が届く。
「うん……あの人が、僕を助けてくれた人で……あっちでの保護者だった人なんだけど……」
 この言葉の後、いったいどう続ければいいのだろうとキラは思う。
『みたいだね。まぁ、連邦軍のパイロットじゃ、キラが言えなかったのも無理ないと思うけど』
 アスランが小さく笑いを漏らしながら言葉を続けた。
『でも、ちゃんと話してくれたからね。気にしないよ、僕は』
 その言葉にキラは安堵のため息を漏らす。フラガに嫌われるのは怖い。だが、それと同じくらい彼に嫌われるのも怖いと思っていたのだ。
「……ありがとう……」
 嫌わないでくれて……と言う言葉は口に出さない。それでもアスランには十分伝わったようだ。
『何を言っているんだか。僕がキラを嫌いになるわけないだろう?』
 例え、君が僕に嘘を付いていてもね……とアスランに付け加えられて、キラは目の奧が熱くなる。だが、ここで泣き出すわけにはいかない。
「……みんなも、そう言ってくれればいいんだけど……」
 それでも、アスランだけでも変わらずにいてくれればいい……とキラは心の中で付け加える。
『案ずるより産むが易し……だと思うけどね』
 アスランがこう言ったときだった。ヴェサリウスがゆっくりとハッチを開けたのが確認できた。
『アスラン、キラ。そのままデッキへ』
 二人の耳に、ヴェサリウスからの指示が届く。
「了解」
 言葉と共に、二人はハッチへ向けて機体を滑り込ませていった。


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最遊釈厄伝