狭間

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  13  


 いったいどの艦に目的のMAが搭載されているのか。
 それが作戦を成功させる上で重要なポイントだったと言っていい。
 だが、クルーゼはその点でもぬかりなかった。中立国であるオーブ経由で月の連邦軍基地に情報提供者を潜り込ませていたのだ。
「おそらく、目的のMAはこの戦艦に搭載されているものと思われる。他の戦艦に関しては遠慮はいらん。好きにしろ」
 ただし、熱くなるな……というクルーゼのセリフにアスラン達は素直に首を縦に振る。ただ一人キラだけは緊張を隠せない表情だった。
「心配しなくていい、キラ。ちゃんとフォローしてやるから」
 そのキラの耳に、アスランの声が届く。
「……心配しているわけじゃないんだけど……」
 やっぱりね、とキラは彼に苦笑を返した。
「その気持ちもわかるけどね」
「まぁ、キラの場合、これが初陣だからな」
「大丈夫ですよ。ちゃんとうまくいきますって」
 アスラン達の会話を耳にしたのだろう。アスランだけではなくディアッカやニコルもキラに声をかけてくる。
「安心しろ。ちゃんと作戦は成功させてやる」
 キラの顔を覗き込むようにしてイザークが最後を締めくくった。その事実にアスランが少しだけ不満そうな表情を作る。だが、それを口には出さなかった。
「今回の作戦には、お前達だけではなくジンも12機投入される。だから、お前達はそれぞれの役目に専念するように。必要と判断した場合、私も出る」
 だが、キラにとって一番安心できたセリフはこれだったらしい。ほっとしたようなため息が彼の唇からこぼれ落ちた。
 アスランとイザークは、一瞬その事実がおもしろくないという表情を作る。だが、相手が相手であるがためにしかたがないと思い直したようだ。
「作戦開始まで、ミーティングルームで待機しているように」
 クルーゼがかすかに口元をほころばせたのは、キラだけではなくアスラン達の態度も関係しているのだろう。だが、それを問いかけられる強者はキラ以外にいない。そしてキラがこのような場で身内としての言葉を口にすることは考えられないだろう。
「はっ!」
 五人は彼の言葉に敬礼を返す。そして、そのままブリッジから退出をした。
「しかし、あれだけ本国が欲しがっているシステム……というのは何なのでしょうか」
 ミーティングルームへと移動しながら、ニコルがふっと呟く。
「だよなぁ。わざわざMA一機を捕獲するのに、G五機だけではなくジンに隊長のシグーまで参加する可能性があるなんて、大きな作戦だよな」
 ディアッカも興味津々と言った様子で相づちを打つ。彼自身、作戦の大きさに驚いているらしい。実際、これだけ大きな作戦は彼らにとって初めてなのだ。
「キラ、知っているのか?」
 クルーゼの言葉からキラがそのMAについて知識を持っていると推測してるのだろう。イザークも声をかけてくる。
「……どんなシステムの原理はわからないんだけど……パイロットの知覚を広げて、有線ガンパレルを意識で操作するシステムだと……だから、適性がないものには使えないんだって言ってた」
 その内容に、誰も口を開くことができない。というより、その内容が想像できないと言った方が正しいのか。
「……つまり、どういうことだ?」
 一番最初に想像することを放棄したのは、ディアッカだった。
「僕たちの場合、手足の動きなんかは無意識のうちにしているようなものだろう。そのMAは、ガンパレルの位置関係をそうしているらしい。でないと、ワイヤーが絡む可能性があるからね」
 それでは使い物にならない、とキラが口にしなくてもわかる。
「……なんだかよくわからないが……それって、応用が利くのか?」
「そのシステムの適性について詳しい情報がないからはっきりとしたことは言えないけど……無線形式にできないか、という話は出ていたよ」
 武器としての利用はともかく、探索や防御について利用の可能性があると判断されたのだ……とキラは付け加えた。
「だから、パイロットも確保したいと言うことか」
 システムが解析できても適性を持つ者がいなければ確認のしようがない。だから、確実に適性を持っている者が必要だと言うことは簡単に想像ができる。
「……予想以上に重大だな……」
 機体だけであれば、最悪の場合パイロットを殺してもかまわないのだろうが、パイロットごとと言うことは一対一でもかなり難しいだろう。
「ジンも参戦してくれるというのであれば、アスランがフォローをしてあげてください。イージスなら即座に相手を押さえつけられるのではないですか?」
 MA体型で相手を確保したら、そのままヴェサリウスまで運んでしまえばいいとニコルが告げる。その間の防御をキラが担当すればいいのではないかとも彼は付け加えた。
「あぁ。その方が確実だな。お前に手柄を立てさせるのは不本意だが、作戦成功の方が優先だ。そうしろ」
 イザークがこういうセリフを言うとは思わなかった……というのがニコル達の共通した認識だろう。
「でも……」
 それではクルーゼの立てた作戦が……とキラは口にしようとする。
「そうだね。そうさせて貰うよ。その代わり、俺たちが退いたら好き勝手暴れるんだろう、お前らは」
「当然だ」
 だが、アスランとイザークの間で同意ができてしまっては口の挟みようがない。その代わりというようにキラは深いため息をつく。
「気にしない方がいいですよ。それよりも、僕としてはあの二人に共通認識ができたと言う方がありがたいですけど」
「賛成。これで、今日は比較的楽にフォーメーションがくめる」
 そんなキラをフォローしようと言うのか、ニコルとディアッカが苦笑を浮かべつつ声をかけてきた。
「……それはそれで問題だと思うんだけど……」
 と呟くキラに
「これでも、キラが来てくれてからかなりましになったんですよ」
 ニコルがこっそりと教えてくれる。
「……本当、どういう教育をしてきたんだろう……」
 誰が、とは言わなくても、おそらくわかってしまったのだろう。ニコルが複雑な表情を浮かべている。
「むしろ、煽っていましたからね、隊長は」
 それがあの二人の実力を引き出したのだから、と告げるニコルに、
「だといいんだけどね」
 キラは意味ありげなセリフを返した。


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最遊釈厄伝