この手につかみたいもの

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 ようやく手に入れた完全とは言えないデーターを元に立てられた計画。それは、成功と破綻を紙一重で選択せざるを得ないものだった。それでも、現状ではそれ以外方法はないだろう、と誰もが判断をする。
「……キラ……とりあえずお前は自分の身の安全を第一に考えろ。いいな?」
 フラガの言葉に、キラは小さく首を横に振った。
「まぁ、お前の性格から、言っても無駄だとは思っていたがな」
 そんなキラの仕草に、フラガは仕方がないというようにため息をつく。
「と言うわけで、お前らに頼むしかないわけだ」
 言葉とともにフラガは視線をアスラン達に向けた。
「わかっている」
「一緒に呼び出されたときから、そのつもりだ」
 口々にこういう二人に、フラガは満足そうな表情を作り、キラはむくれたような表情を作る。
「しかし、連中も考えたよな。移動にイージスを指定してくるとは」
 そんなキラを無視してフラガはさらに言葉を重ねた。
「あれなら、お前ら三人が乗ればコクピットはいっぱいだ。他の誰かが隠れて着いていくことは出来ない」
 それを目的にしてのことだろうとはわかる。だが、どうして連中がそこまで細かく指定をしていくるのか理解に苦しむというのがフラガの偽らざる心境なのだろう。
「……ストライクでもかまわないだろうに……」
 むしろその方がありがたいのに、とキラは付け加える。
「キラに万が一のことがあったら困るからだろう。お前の性格から考えれば、わかることだ」
 ストライクで施設内を暴れる可能性があると判断したのだろうと言われれば、キラとしても納得しないわけにはいかない。
「……二人の安全を確保できなければそんなことしないよ」
 それでも反論をするかのように言葉を口にする。
「わかっているって……ともかく、無事に戻ってこい。いいな?」
 自分たちも出来る限りの援助はする……と告げるフラガに、三人は頷き返した。そして、そのままイージスのコクピットへと身を滑り込ませる。
「……さすがに三人だときついな」
 カガリは女の子だし、キラは男とは言え標準よりかなり華奢な体格だ。それでも狭いコクピットの中に三人というのは辛いものがある。
「仕方がないな。元々は一人乗りだ」
 しかも、戦闘のための……と口にしながら、アスランはゆっくりと機体を移動させていく。この状態でカタパルトを使うことはキラ達の安全を確保できないと判断したらしい。
 つまり、これにさらに二人を乗せて逃げ出すことは出来ないと言うことだ。それもねらいの一つなのだろうとキラは思う。
「……と言うことは、逃げ出すときにはあちらから何かを貰ってこないといけないって事だよね」
 口の中だけで呟いたつもりの言葉は、しっかりとアスラン達の耳にも届いてしまったらしい。
「貰ってくるって……素直に強奪してくると言えよな」
 カガリが苦笑を浮かべつつ言葉を返してくる。
「あるいは、さっさと迎えに来て貰うかだな」
 イザーク達の善戦を期待しようとアスランも付け加えた。
「……無事に戻ってこれるなら、何でもいいんだけどね」
 キラが小さく呟く。
「もちろん、意地でも戻るに決まっているだろう?」
「全員、無事にな」
 そのために自分たちは行くのだ、とカガリとアスランは異口同音に口にする。
「そうだね。そのために行くんだよね」
 そして、全てを終わらせるために……とキラは心の中で付け加えた。

 イージスを指定されたポイントで静止させる。だが、どこにもそれらしい施設がない。その事実にアスランは眉をひそめていた。
 その時だった。
 イージスの通信回線が着信を告げる。
「お呼び出しだ」
 言葉を口にしながらアスランは回線を開く。だが、届いたのはメールだけだった。あくまでも自分たちの姿を見せたくないらしい。その事実が余計にうさんくささを感じさせる。
「……どうやら、小惑星に偽装しているようだね」
 アスランの肩越しにそれを読みとったキラが呟く。
「それで今まで誰にも知られなかったのか」
 その存在を、と口にしたのはカガリだ。
「だろうな。好き好んで小惑星の探索をしようという奴はいないだろうし……」
 そして、それだからこそデーターが少なかったのだろうとアスランは思う。
「キラ」
 ふっと思いついたというように、アスランは自分の肩に手を置いている彼の名を呼んだ。
「何?」
「このデーター。ばれないようにヴェサリウスへ送信できるかな?」
 このままでは仲間達が自分たちを見失う可能性が強い、とアスランは言外に付け加える。
「……出来ると思うよ……偽装メールにして、一定の条件で本文が表示されるようにすればいいんだから……でも、だったらアークエンジェルの方がいいかもしれないな。カズイならたぶんわかってくれるはずだから」
 通信を受け取るのも彼の役目だし……とキラは告げた。
「かまわない。確実に伝わればいい」
 アスランの言葉にキラは頷く。同時に、手元にキーボードを引き寄せると、メールを打ち込み始めた。さらにそれを偽装するためのプログラムもこの場で打ち込んでいく。キラの能力はよく知っているつもりだったが、記憶だけでそれを打ち込んでいく彼に改めてアスランは感心してしまう。
「……これで大丈夫だと思う」
 そう言いながら、キラが送信をしたメールには『二人を迎えに行ってくる』という、誰が読んでもおかしくない文が書かれていた。これなら、例え相手に見られたとしても大丈夫だろう、と判断をする。
「……じゃ、いいね?」
 その言葉が何を指しているのかわかったのだろう。キラとカガリはほぼ同時に頷いた。
「接近するよ」
 スロットルを操作しながら、アスランはゆっくりと目標と思われる小惑星へとイージスを接近させていく。
 それに呼応するかのように、小惑星――と言ってもヴェサリウスの4倍以上の大きさはあるだろう――の一角から光が現れる。
「あそこから入って来いって事かな」
「だと思うけど……」
 アスランの言葉にキラが同意の言葉を口にした。
「だが、何が待っているかわからないぞ」
 あぁやって誘い込むって事は……とカガリが疑い深そうに眉を寄せる。
「罠という可能性は否定できないと言うのは事実だな」
 そんなカガリにアスランは同意を示す。彼女の考え方はまだ机上の空論という面も多いが、こういった点に関しては的確だと思う。逆にキラの場合は実際の戦争を知っているのに、まだ他人を信じようとする態度が見える。それが悪いとは言わないが、同時に彼の精神の不安定さの要因になっているのではないか、とアスランはいつも思っていた。
「……キラ、絶対僕から離れるなよ」
 一人で行動をするな……と付け加えれば、キラは小さく頷く。
「どうしてみんな、そう言うんだろうね……僕だって、ちゃんと戦えるのに……」
 それでもどこか不満そうに言葉を口にする。
「銃の使い方も知らないくせにか?」
 カガリがキラに向かってあきれたようなセリフを投げつけた。
「……だって……」
「いいんだよ、キラは……そんなこと知らなくても」
 自分が守るから、とアスランは笑う。
「他の連中もそう思っているから、キラにそう言ったんだよ」
 キラに笑っていて欲しいから、と付け加えるアスランに、キラは困ったように小首をかしげる。
「大好きだよ、キラ」
 アスランはいつものセリフを口に出せば、
「……お前……そういうことは二人きりの時に言え!」
 カガリがあきれたように肩をふるわせた。
「お前はそう言うけどな。僕はいつでもキラにこう言いたいと思っている」
 でないと、キラに忘れられそうだし……とアスランは平然と言い切る。
「アスラン!」
 キラの叫びが狭いコクピット内に響き渡った。それがアスラン達の気持ちを少しだけ和らげてくれる。これから起こるであろう事態にその事実がどれだけ大切なのか、キラは理解していないのではないだろうか。だが、彼がそれでいいとアスランは心の中で呟いていた。

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最遊釈厄伝